真田九勇士

23/34
前へ
/777ページ
次へ
「え?どうしてカイーーー」 「そんなこと、あなたが知る筋合いないでしょ?」 「…はい…。 海野さんのことはカイさん、と呼べばいいんですね?」 「ーーーできれば、あんたがカイを呼ぶ機会がないことを願うけどね」 六花の鬼気迫る表情に、伊咲は萎縮してしまった。 ああーーーなるほど。 この女の子は、海野六郎…カイと呼ばれていたあの人のことが好きなんだろうな。 さっきカイさんが私に好意的に接してくれたことで、 この子は私に対しての風当たりが強いのか…。 「気をつけますね。 六花さんのような可愛らしい人に言われてしまったら、 私もそれを破る訳にはいかないですもんね」 「!…そ、そう?」 「はい。六花さんから大切に思われているカイさんが羨ましいくらいです」 伊咲におだてられた六花は、だんだんと頬を赤らめ、口振りも柔らかくなって行った。 「と、とにかく勘違いさえしなければいーのよ!」 「勘違い?」 「カイの優しさは万人に対するものだってこと! 別にあなただから優しくしたわけじゃなくって、 カイはみーんなに優しいんだから!」 「…ふふ、分かりました」 思えば、この子も私が教えていた高校生くらいの年頃だろう。 好きな男の子がいて、焼きもちを焼いたり、強がったりしても何らおかしくない年齢だ。 そう思えば、この子ともうまくやっていけるかもしれない。 「…やっぱり私も、六花さんと呼んでもいいですか? その…六花さんさえ、嫌でなければ」 「まーーーまあ、好きに呼べば?!」 その後彼女は、自身の部屋に通すと 衣装棚からいくつか着物をあてがい、 一番地味で見栄えのしない衣を伊咲に貸してくれた。 そして伊咲を湯あみ場まで送り届けると、 「じゃあ、私が世話するのはここまでね!」 と素っ気なく言い、去って行った。 「ありがとうございました…」 伊咲がそう言い終えると、湯あみ場の戸が内側からガラリと開かれた。 「お待ちしていました」 「!甚八さん」
/777ページ

最初のコメントを投稿しよう!

308人が本棚に入れています
本棚に追加