真田九勇士

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「前職とは?」 「いや、その…。 実は予言者になったのはつい最近というか…。 その前は、教師をしていたんです」 「教師?」 下手に誤魔化すのも良くないし、教師ならばこの時代にも子どもたちに勉強を教える役割の人達がいるのだから違和感はないはず。 伊咲はそう思い、そこは正直に話した。 「はい、歴史を教えるのが専門だったもので… そういう書物を目にすると、解読したくなってしまうんです」 「なるほど。 …これは孫子の兵法を書いたものです」 すると、意外なことに 甚八は伊咲の質問に答えてくれた。 「孫子の兵法…知ってます! 昔から存在する、有名な兵法書ですよね。 でもどうしてそれを甚八さんが?」 「…軍略を練るのが、俺の仕事の一つだからです」 「へえ…甚八さんは参謀役なんですね」 「…」 「…甚八さん?」 「ーーー余計なことを言ってしまった」 甚八はパタンと書物を閉じ、眉間に手を当てて項垂れる様子を見せた。 「あの…? すみません、私が余計なことを聞いてしまったせいですよね…」 「ーーーいえ。 別に、知られて困る話でもないので。 それより…」 甚八はちらり、と伊咲を横目に見た。 「着物の着付けがなっていないのでは」 「えっ?ーーーああっ!!」 伊咲が目線を下にやると、胸元ははだけ、膝から下が着物から丸見えになっていることに気づいた。 「すみません!! 着物って人生で着たことがなくて…」 「着物を着たことが、ない…?」 甚八は少し驚いたように考え込み、そして尋ねてきた。 「これまで裸で生活してきたということですか」 「っ?!ーーー違います、違います!!」 伊咲は慌てて訂正した。 「私が暮らしてきた文化で、着物があまり主流ではないというかーーー 着物の代わりになる衣を身につけて生活していたんです、丁度さっきまで着ていたようなものを!」 「そうでしたか。 ーーーともかく、胸と足を隠して下さい」 「…お目汚し失礼しました…」 胸の谷間や太ももが見えていたわけではないのだが、 甚八からの指摘を受け、伊咲はやや苦しいと思うくらいにしっかりと着物を着付け直した。 着物の着方なんてわからないよ…。 はだけてこないように、安全ピンみたいなもので留められたらいいのに…。 「…この後ですが」 「はい!」 「俺は軍議に出なければなりません。 そこでーーー少しの間、カイにあなたの監視をしてもらいます」
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