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「甚八、お疲れ様」
甚八の後をついて行くと、ある部屋の前で海野六郎ーーーカイが待っていた。
「後を頼みます」
甚八はそう告げると、元来た道を颯爽と戻って行ってしまった。
「伊咲さん、と呼ばせてもらっても?」
「!は、はい…海野さん」
二人きりになると、カイはにっこりと伊咲に微笑んだ。
「立っているのもなんだから、部屋に入って?」
「あの…ここは…?」
「僕の部屋だよ。
君に与えられた部屋で君を監視しているのもいいんだけど、
自分の部屋にはこれがあるからさ」
「?」
カイは朗らかな笑みを浮かべながら、部屋に置いてあった茶道具で抹茶を点て始めた。
「苦いのは平気?」
「あっ、はい!抹茶は大好きです!」
カイは器用な手つきでダマを作らず点てて行き、均等な泡立ちのお茶を完成させた。
「こっちが菓子。お茶と一緒にどうぞ」
「ありがとうございます。
頂きますーーー…」
本格的なお茶を目の前で作ってもらった伊咲は、
おずおずと戸惑いながら一口すすった。
「…美味しい!」
「そう。良かった」
「海野さんはお茶が趣味なんですか?」
「うん、お茶を点てていると気分が落ち着くからね。
まあ、これからまた戦でそれどころじゃなくなるだろうけどーーー」
「海野さんも戦に出るんですか?」
伊咲が尋ねると、カイはくすっと笑って言った。
「ねえ、伊咲さん。
僕のことはカイで良いよ。
皆そう呼ぶから」
「え?でもいきなり呼び捨てなんて…」
「あなたは僕より少し歳上でしょう?
さん付けで呼ばれるのはなんだかくすぐったいから」
「えっと…カイ…さん」
「ふふ、早速さん付けしてる」
「ああっ!これは…。
すみません、頑張ってカイって呼びますので!
ーーーあっ、今ちゃんと呼べました!」
「あははは、伊咲さんは面白いね」
カイが笑っているのを見ているうちに、
伊咲の心がするすると解けていくのを感じた。
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