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伊咲がとある仮説を立てたその時、
先程の男が仲間らしき男達を引き連れて戻って来た。
そして伊咲の方をちらちら見ながら、
小声で相談を始めた。
「…『ただの観光客』と申しているのだが」
「カンコウ…客とな?
それに見慣れぬ服装をしているな」
「目鼻立ちからして異人とは思えぬが、
話し方など我々と差異があるように思えた。
やはりただの客と言うにはいささか…」
「ふん、せいぜい他所の大名の忍だろう。
町人の振りをして城に潜り込む忍は過去にもいたからな」
彼らのやり取りを聞いた伊咲は、とある仮説に真実味が増したことを感じ、
彼らがこちらに声をかけるより早く尋ねた。
「すみません!今って何年ですか?」
すると、男達はぴくりと肩を揺るがせ、
怪訝そうに伊咲を見た。
「お主、今が何年かも知らぬとは
並の教育すら受けていないのか?」
「えっと…さっき気を失った衝撃で
ど忘れしてしまったようで…」
「哀れな奴め。今は天正13年だ」
天正13年ーーー西暦だと1585年!
伊咲は一瞬のうちに計算した。
つまり時は室町時代後期…戦国時代だ!
ああ、やっぱり…私はどうやらタイムスリップしてしまったらしい。
「ーーーふ、ふふ…」
「うん?何だ、笑っているのか?」
「…やった…夢が現実になったんだ…!」
伊咲は吊し上げられた状態にもかかわらず、
思わず顔面中に笑みが溢れ出て来た。
戦国!一番大好きな時代!
授業でも時代小説でも歴史物のゲームでも
何度も何度も繰り返し触れて来た戦国時代に
今私は居るんだーーー…!!
「おいっ、不気味過ぎるぞこの女」
「刺客かどうか確かめる前に、叩っ斬ってしまった方が手っ取り早いかもしれんな」
「え?!」
折角戦国時代に来れたのに!
有名な武将の一人も拝めないうちに殺されるなんて溜まったものじゃない!!
伊咲は頭をフル回転させ、この状況を打破するための一つのアイディアを思いついた。
そして賭けに出ることにした。
「待って下さい!
私は忍でも刺客でもありませんーーー
予言者です!!」
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