真田九勇士

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「えっ、そうなんですか?」 「それでも、友人としてでも構わない、 少しでもお近付きになりたいので 押して引いてをあれやこれや繰り返しているんですけどね!」 照れ臭そうに語る雛が、伊咲は可愛らしく思えた。 雛とひそひそ話で盛り上がった伊咲は、 食事を終えて雛が去った後、話の内容を振り返っていた。 一番早くに召抱えられたのが、カイと六花さんだとも教えてくれたけど、びっくりしたなあ。 二人とも二十歳前後くらいだから、子どもの頃にやって来たってことになるのかな? 子ども時代から誰かに仕えるって、 この時代そう珍しくないのかもしれないけど、 やっぱり自分の子ども時代とはかけ離れて感じられるなーーー 伊咲があれこれ考えながら寝る支度を始めていると、 戸の外から甚八の声が聞こえて来た。 「寝るんですか」 「え?はい、そろそろ…」 「では、俺はこれで」 「…あのっ」 腰を上げようとする音が聞こえ、伊咲はつい尋ねてしまった。 「夜も見張っていなくていいんですか?」 「…逃げるつもりなど無いのでしょう?」 「そうですけど…。 少し軍議に行く間はカイに任せたり 湯あみの時も戸越しに監視しているのに、 逃げ出すのに絶好な夜の時間を私一人にするって、どういうことなのかなって…」 「ーーー他の命を受けていて、夜はあなたを視てはいられないからです」 伊咲の問いかけを交わすのが面倒に思ったのだろうか、甚八はあっさりとそう告げた。 「そ、そうだったんですか」 「それでは」 甚八が去って行くと、伊咲は頭をぐるぐると回転させながら布団に入った。 他の命って…? 幸村様の命は、私をずっと監視していること。 主君である幸村様の命令は絶対のはずなのに、 それを退けても行かなくてはならない用事って何なのだろうーーー
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