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「いたたた…」
乱暴に牢の中に閉じ込められ、その時あちこちを打った伊咲は
涙目で身体中をさすっていた。
ここが天正13年の上田城であるならば
もう間も無く第一次上田合戦が始まることは間違いないのに。
どうしてそれを言った途端に牢獄に入れられてしまうのだろう。
このまま牢獄の中で衰弱死してしまうんだろうか…
私の25年の人生、まさかこんな形で幕を閉じるなんてーーー
伊咲が落ち込んだ気分で体育座りをしていると、
外から二人の男が近づいて来た。
「彼女が怪しい予言者?
普通の可愛い女の子じゃんか」
「鎌之助、口を慎め。
女を口説くために来たのでは無いのだぞ」
「清海は固いなぁ。
身なりも僧侶みたいだしさー」
「僧のような悟りの心で戦に挑みたいという気構えだ」
「清海はもーちょっと砕けてもいいと思うよ?」
「あのー…」
伊咲そっちのけで、牢の柵越しに話し込む二人の男に
伊咲は恐る恐る声を掛けた。
「すみません、聞いてもいいですか」
「おっと、話し込んじゃってごめんね!」
伊咲が言うと、男のうちの一人ーーー鎌之助と呼ばれていた方が反応した。
「どーしたの?何でも聞いてよ!」
「じゃあまずは…どうして私は閉じ込められているのでしょう?」
「それはお主が刺客の疑いをかけられているからだ」
もう一人の男ーーー清海と呼ばれていた方がそう返した。
「刺客?私は予言者です!
これから起こることをありのままお伝えしただけなのに」
「うん、そのありのままが問題なんだよねー」
鎌之助は苦笑しながら続けた。
「徳川軍がもう間も無く攻めてくること。
もちろん真田の兵達は把握して戦の準備をしているんだけど、
領地の町人達には知らされてないことなんだよね」
「うむ。余計な不安を煽らせぬ為にな。
我らは徳川軍を城の中や領地内に侵入させる前に撃退するつもりでいるゆえ」
「わあ清海!そこまで言っちゃダメっしょ」
「む、そうだった。あいすまぬ」
「だからつまりさ、このことを知っているのは
後は敵方である徳川軍の関係者ってことになっちゃうんだよねー…」
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