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「いま俺、人生でいちばん幸せ…」
「君の"人生でいちばん"って、何個あるの?」
布団の中で、薄いがあたたかな胸に顔をうずめ、太一は恋人の肉体を外側から堪能していた。月曜の夜にデートをして、週末に泊まりに来るのが、今のところは彼の人生でいちばんの楽しみである。
「それより優、髪明るくしたな」
「やっと気づいた?」
「気づいてたけど今言った」
「友達の美容師に頼まれて新しいカラーリング剤使ってみたら、けっこう明るく出ちゃって。年甲斐もなくこんな色だよ」
「すげー似合ってるよ。俺明るいの好き」
「前は暗めがいいって言ってた」
「似合えばどっちでもいい」
「テキトーだなあ」
立っていれば優の方が背は高いが、臥せれば逆転したように太一の方が大きく見える。腕だって脚だって、どれもすべてひとまわりは太一の方が上回っているのだ。
「優・・・」
子供のような、あるいは飼い犬のような甘えた眼で、愛おしい恋人の瞳をじっと見つめる。
「なーに?」
「愛してる」
「なんか軽々しく言ってる」
「いーや重々しく言ってる」
「それもちょっとな」
「お兄さん、まだ俺のこと嫌いかな」
「…嫌いとかじゃないよ」
「でも全然心を開いてくれない」
「そ、それは誰に対しても…なんというか、平等に…」
といいかけたそのとき、突如ノックもなく扉が開かれた。
「問題です!」
「うおっ!!」
「ひっ!!」
布団でいちゃついていた姿のまま、ふたりは蒼白の顔で扉に立つ時生を見た。
「誰がどーー見てもおんなじ顔をしたふたりの少年がおりました…」
「・・・・」
「・・・・」
「しかしふたりは双子ではないと言います…」
「兄さん」
「それは何故でしょう!」
「勝手に入ってくるなよ!」
「はい優くん」
「入ってくるなっての」
「お、お兄さん」
「貴様にお兄さんと呼ばれる筋合いはない!!」
青筋を立てて叫ぶ時生にふたりは息を呑み、部屋には謎の緊張が広がる。
「…優くん、君はまだケッコン前の裏若き男子だ。ひとときの気の迷いでそんなくだらん男などと同じ布団に寝てはいけない」
「偉そうなこと言わないで、だいたい兄さんいつになったら働くんだよ!この家はもう実質ここで働く僕のものだからな。あんまりいつまでもフラフラしてるといい加減追い出すぞ!」
「ゆ、優、やめなって…」
「さあてクイズの答えは?」
(こいつ…全然聞いてない)
「実はクローンだったから?」
「ブッブー」
「たいちゃんも答えんなよ!」
「正解はあ〜・・・三つ子だったからでしたー!」
「ああー、そういうことか」
「もう出てってくれよ」
「優くん、下で一緒にプリン食べないか。冷蔵庫に入ってた」
「僕が買ってきたやつだから勝手に食べないで」
「じゃあゲームし」
「寝ろ!!」
兄を強引に外に押し出すと扉を強く閉め、普段は掛けるなと言われている鍵を掛けた。
「…あんなに怒らなくても」
「君は邪魔されてよく怒らないでいられるね。しかも普段から邪険にされてるのに」
「まあ…」
再びベッドにどさりと寝転がると、たくましい太一の身体に抱きつき、「兄さんには僕の代わりが必要だ」と言った。
「弟みたいな人?」
「弟というより僕自身。兄さんは昔からちょっと病的だから…あの暑苦しい愛情も喜んで受け止められる人。いないだろうけど」
ためいきをつく優のひたいに、太一がキスをして微笑む。
「俺も優が弟だったら、同じくらい心配性かも」
「…やだ」
「かわいいもん、優」
細い身体を優しく抱きしめ、ゆっくりと上に重なる。
「…電気は?」
「全部見たいから消さない」
そう言って舌を絡めあい、ふたりはいつものように声を抑えた交わりに耽った。
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