【MICO 4】 

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【MICO 4】 

「えっ?」 「えー!?」  ヨージの話を聞いてから、私とタマは交互に『え』しか言えなかった。  ヨーイチが交通事故って。しかも骨折で入院って。  ヨージは、苦笑いをしながら窓際に行く。 「雨でもヨーイチはいっつも自転車やったのになあ」  そう言って、窓から校庭の向こうの坂を見ているのだろう。  アクシデントは突然起こるものだけど、まさか自分のこんなに近くで。 「ウエハラ先輩の呪いではないな」  ヨージに並んで窓の外を見ながら、タマが言う。 「あんたやったらともかくな」 「おまえまで、何アホなこと言うとんねん。生霊なってる暇ないやろ、ウエハラ先輩」  ヨージがこちらを向いた。私と目が合う。もしかしたらヨージも、朝あんな話をしてしまったことを後悔してるのかもしれない。 「それはわからんで。あの受験の失敗が尾を引いて、哀しい人生なっとったら生霊なるかも」  タマは何も知らないから、窓の外を見たままでそんなことを言った。  ヨージの顔色が変わった気がする。まさかね。 「まあ、そうやとしてもヨーイチは違うよ。だって早すぎるやん時期。まだ夏休み前やし」  私の声はいつもよりずっと大きく地学室に響いて、自分でも焦った。ヨージはちょっと笑って 「ほんでな、おまえらにも助けてほしいんや。古本屋でマンガ(さが)すん。ほんでな、できればカンパを」  そう言って、合わせた手を上げて私たちを拝んだ。  タマと顔を見合わせる。タマはちょっと首を縮める。 「しょうがないなあ」 と聞こえた気がした。  土曜日。古本屋さん3件を回ってようやく全巻を揃えて、三人で中央病院に行く。  ヨーイチは天井から右足を吊って横になっていた。 「持ってきたぞ」  ヨージの声に窓からこちらに視線を移した。 「うわ、ミコもタマも来てくれたんか!俺、モテモテやんけ、ケガしたら」 「アホか」  ヨーイチの嬉しそうな声は、タマの一言に掻き消される。 「弱ってるときくらい、優しくしてくれ!」 「ほんまアホやわ。何しとん?どんだけかかるん?入院」  タマはそう言ってベッドの横の椅子に座る。反対側にあった椅子をヨージが私に持ってきてくれた。 「大変やったね」  私が言うと、ヨージがやっと口を開いた。 「おまえはこれから、ミコ様とタマ様と呼べ!」  そう言いながらマンガの本を出す。 「おお!バイブル!」  ヨーイチは、大袈裟に叫んで手を伸ばした。 「マンガ読んでんと、勉強せい!受験生!」  タマの呟きに、ヨージがマンガの入ったビニール袋を引っ込める。 「おまえはオカンか!」  タマに向かってそう言ったヨーイチは、私の方をちらっと見てすぐに視線を反らせた。なに?  自転車で帰るヨージとは、病院の入り口で別れた。タマとバス停でバスを待つ。 「元気そうでよかったね」  さっきから黙ったままのタマに言った。タマは 「うん」 と頷いたけれど真顔だ。 「どうしたん?」  私が聞くのと同じタイミングで、タマが大きなため息をついた。そしてポツンと。 「完治まで2ヶ月はかかるよ、膝下の複合骨折やったら」 「えっ?そんなにかかるん?」  タマは頷く。 「手術も一回ではあかんかもしれん。期末試験間に合わへんの違うかな」 「松葉杖で通学できるんと違うん?」  期末試験が受けれないって、卒業は? 「まあ、事故やねんから、なんか方法はあるんやろけど。出席日数考えたら夏休み前でよかったけど」  二学期まで学校で会われへんってこと?  ヨーイチヨージのおバカ勝負は、いつ復活できるんやろ。  後半の夏期講習には戻ってこれるかなあ、松葉杖でも。  それに最後の文化祭は元気に出演()れますように。ギターとベース、二人だけでも。 「マンガ読んでんと勉強せい、アホが」  タマの言葉はきっと返事を求めていない。  浪人は仕方ないとしても、一緒に卒業したい。          
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