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【MICO 6】
ヨーイチからの招待状を見たのは昨夜12時前。一昨日着いてたのに、妹が間違えて自分の部屋に持って行ってた。怒りなげら内容を確認したら、今日のこと。あわてて準備をして電車の時間を調べた。
お母さんには、いきなりタマの親戚の家に呼んでもらったと嘘をついた。妹には責任をとってもらって口裏を合わせさせている。お土産は必要みたい。
新幹線に乗ってから考えていた。この招待状の意味。
ヨーイチは、弟くん曰く『避暑地の叔父さんのペンション』にいるらしい。そこに私とヨージを招待してくれるってことかな?
最後の夏休み。タマもいれば3人が招待してもらえたんだと思う。[BECK]のお礼かな。
高校生活最後の夏休みに素敵な思い出ができればいいなあ、九州のタマには申し訳ないけど。
ヨーイチから連絡があれば知らせてって言ってたから、新幹線の中からタマにメールをした。
タマはいきなりのことに少し驚いているみたい。
(ヨージもかな?)
そう聞かれたけれど、私はヨージのメアドは知らない。毎日学校で会えるからメアドを聞く必要もなかったし、自分から聞くのって恥ずかしい。なんかある時は必ずタマがいたし。
(ヨージから連絡行ってないの?)
(まだない。)
今回のヨーイチの招待は私だけであるはずがない、必ずヨージもいるはず。ヨージは私のメアド知ってるのかな。教えてもらっといたら良かった。
(タブン。でも私ヨージのメアド知らんから。確認できへん。)
タマにそう返信した。
(えっ?知らんかったん?)
と返信が来た。そしてヨージのメアドが書いてあった。タマありがとうやん。
そしてすぐに
(せっかくの招待やねんから楽しんでおいでね。お土産待ってるし!)
そんな返信。
初夏の草原、最後の夏休みの始まり。ヨージとヨーイチと3人なのかな。今日は天気もいい、星が見れるといいなあと思っていた。
とりあえず、タマに教えてもらったヨージのメアドにメールを送ろうかと思ったけど、なんて書いたらいいんかな。
そもそも本人からメアド教えてもらってないのに、送ってもいいんかな。ヨージは気難しいとこあるから、そんなん嫌いかもしれない。そう思うとなかなか送れない。
もう一度タマにメールする。
(緊急やから、私にメアド教えたことヨージに言うておいてくれる?)
(ラジャ!)
タマからの短い返信に、
「ラジャって」
と声に出して言いって緊張をほぐしてから、ヨージに送るメールを読み返して何度も訂正をしていた。
××駅ホームに下りて、ヨージの姿を探したけれどわからなかった。結局メールはついさっき送った。どんだけ考えてたんやろ、私ってば。
夏休みの入口。うちの学校の3年は夏休みが少し早く始まる。でも高校・中学・小学校は普通まだ数日先かな。
大学生はもう夏休みなんやろうな。ちょっと煩い集団が前にいたので、抜かすこともできずに少し離れて改札までついて行く形になる。時間はまだ大丈夫だけど。
約束の電話ボックスはすぐにわかった。そしてそこにはもうヨージがいた。ちょっとドキドキしながらチュニックの皺を直して、髪を整える。
ヨージは携帯の画面を見ている。私からのメールに気が付いたかな?タマはメール送ってくれたかな?
小さくひとつ深呼吸をする。空気が美味しい。
キョロキョロと道の方を見ているヨージの後ろから声をかけた。
「ヨージ」
振り返ったヨージは少し驚いた顔をする。メール読んでなかったのかな。
「ミコ、どうしたん?」
すっごい偶然って考える方が難しいよね。
「メール着いてなかった?ヨーイチからの【招待状】の件」
メアド間違えたかな。
「メールくれてたん?ごめん気ついてへんかった」
ヨージはあわてて携帯をいじった。ちょっと恥ずかしい気がする。
私のメールを読んで、
「ほんまいきなりびびるよな。ナニ考えてんねん、あいつは」
ヨージがそう言った時、私たちの前に白い軽自動車が停まった。運転席のドアが開いて、軽自動車には似合わない大柄な男性が出てくる。
「ヨージくんと、ミコちゃんかな?」
体に似合う大きな声で確認されて揃って頷いた。大きな男性はニコッと笑って
「洋一の叔父です。栗山です。今日は遠路ありがとう。乗って」
運転席の方から、後部のドアを見た。
「ありがとうございます」
ヨージと二人、お礼を言って後部座席に乗った。
「いきなりごめんね。洋一の我儘で」
運転席でちょっと恐縮そうに言って、バックミラー越しにチラリと私たちを見る。
私は首を振って、ヨージは「いえ」と声に出した。
「迎えに来ていただいてありがとうございます。えと・・ヨーイチは?」
敬語を使うヨージは初めて見たかもしれない。
「うん、あいつはこの近くの病院に入院してる。ちょうど良い病院が隣の町にあったからね」
「ちょうど良いというのは骨折のリハビリですか?あいつの骨折そんなにひどかったんですか?」
なんだかヨージの声が緊張して感じる。そう言えば前にタマが、複合骨折は治りにくいと言ってたのを思い出した。
入院してるのに招待って、どういうことやろ?外出とかできるくらいなんかなあ。
まるで私の気持ちが見えたみたいにヨージが聞いた。
「外出とかできるんですか?」
「いや。詳しくはペンション着いてからにしよう。今日はうちに泊まってもらうように言われてるからね。明日、病院まで送るね。病院からはこの駅までのバスが出てるから帰りはそれで。時間とかもペンションで説明するね」
ヨーイチの叔父さんは運転で前を向いたまま、そう言った。
何となく不安になったのは、ヨージも一緒みたい。二人で顔を見合わせた。
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