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【YO-JI 6】
ミコもというのはちょっと驚いたけれど、タマは九州やから二人なんかな。
でも、まだ病院?外出もできへん?なんじゃそりゃ。骨折やろが。
そう思いながらヨーイチの叔父さんの車で20分ほど走ったと思う。窓の外はさっき駅のポスターで見たなんでもない草原が広がりつつある。ほんまになんもない。今の日本では、なんもないということはそれはそれで売りになるんかもしれんと思っていた。なんかを考えないと、ヨーイチのことで悪いことを考えそうで怖かったのかもしれない。骨折から進展する悪いことっていうのは、俺の想像力の範囲外やけど。
ミコも同じように感じてるのかもしれない。さっきから黙ったまま窓の外を見ている。
運転しているヨーイチの叔父さんもなんも言わへんかった。まあ運転に集中してはるんかもしれんけど。
「もう着くよ」
俺たちが作っている沈黙を破ったのは叔父さんやった。その声のすぐ後に車は小さなペンションの前で停まった。
恥ずかしくなりそうなオトメチックな小さな建物の前には立て看板のような棒。木彫りの板に[albatross―アルバトロス]とあった。ペンションの名前やろな。
車を停めたヨーイチの叔父さんは、俺たちの前に立ってペンションのドアを開けた。
スリッパに履き替えて通された1階の部屋には、二組のお客がいた。くつろいでお茶を飲んでいる。女二人組とカップル。
「部屋の用意できるまで、お茶でも飲んでて」
おじさんはそう言って、俺とミコの鞄を取って2階に上がって行った。
手持ち無沙汰な上に微かな不安を抱えていた俺たちは、黙って空いているテーブルに座った。すぐに女の人がクッキーを持って来てくれる。
「こんにちは。洋一の叔母です。今日はありがとう。コーヒーと紅茶どっちがいい?」
立ち上がって頭を下げた。ミコも前で同じことをする。
「ありがとうございます。お世話になります。俺はコーヒーで、おまえは?」
ミコに聞いた。
「よろしくお願いします。私もコーヒーで」
ミコの声が小さかった。
叔母さんは俺たちのテーブルにクッキーを置くと、奥に入っていった。
最初に口を開いたのはミコやった。
「ヨーイチまだ入院してるんやったら、お見舞いに来てほしかったんかなあ」
確かにそうかもしれん。遠いし普通に言うても来うへん思ったんかな、来るわ、ボケ。
でも、ミコにも来てほしかったんかな。
もしかしたら、やっぱりヨーイチはミコのこと好きなんかもしれんな。だからこんな方法で。そこまで考えてた時に、叔母さんがコーヒーを持ってきてくれた。
「今日はゆっくりしてもらって明日病院行ってあげてね。ヨウちゃん待ってるから。会いたかったと思うのよ、本当はお友達たちに」
お友達って言葉がこそばゆい。
「食事は6時半からここでね。テーブルはお部屋ごとにこれ立ってるからそこでね。アレルギーとか無いって聞いてるけど、大丈夫?」
叔母さんの質問に頷いた。ミコも前で頷く。
指でOKと作った叔母さんがまた奥に入っていってほぼすぐに、叔父さんが2階から降りてきた。俺らのテーブルに来ると、ひとつの鍵を渡してくる。
「2階の一番奥の部屋ね。これ鍵。荷物は部屋に置いてるから。それ飲んでゆっくりして。お風呂は1階の奥に女性用。離れに男性用があるから。そんなに広くないから、順番決めさせてもらうから。君らはどっこも行く予定じゃないから最初でもいいかな?食事前になるけど」
「はい」
ミコと俺の返事が重なった。
「じゃあ、ゆっくりして。疲れたでしょう」
叔父さんはそう言って、俺たちのテーブルから離れようとした。
「あの、ヨーイチのことは」
咄嗟に出た俺の言葉に、叔父さんがちょっと困った顔をした風に見えたんは気のせいか?
「うん、詳しくはやっぱり本人から聞いてくれるかな。あいつもそう言ってたし」
本当に困っている顔に見える。なんで?
コーヒーを飲み終わった俺とミコは、コーヒーカップとクッキーのお皿を奥の叔母さんのところに持って行ってお礼を言ってから2階に上がった。
一番奥の部屋に行く。鍵を開けると普通の洋室だった。十畳ほどの部屋の右と左にベッドがある。
・・・イヤイヤイヤイヤイヤ。あかんやろ!!!
「・・・同じ・・部屋?」
ミコが小さい声で呟くのを聞いて部屋を飛び出した。階段を駆け下りる。階段の下にはエプロンを付けて叔父さんがいた。
「あの、一部屋です」
日本語になってへんかな。
「うん、洋一からはそう聞いてたけど?」
叔父さんはまるで俺が異常なように、不思議そうな顔をする。
「いや、それはマズイです」
「えっ?カップルじゃないの?」
俺はただただ頭を上下させた。
「えっと、どうしよう。今日は満室やから他に部屋はないわ。洋一からはカップルやからツインの一部屋でって言われてたから」
叔父さんは本当に困ったように、自分の頭をポンポンと叩いた。
ヨーイチー!!ボケ!ナニ考えとんねん!!
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