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【YO-ICHI 1(渋谷 洋一:シブヤ ヨウイチ)】
勝利のヤクルトは久しぶり。一瞬で飲むけど、30円やけど、勝利は格別。
「絶対、これまでもそうやってんて、俺のがハンデやってんて。179戦をやり直さなあかん!」
「アホか、そんな変わらんわ。5秒は多すぎ2秒やな!」
ヨージは真剣に返してくる
1時限と2時限の間、まだ誰もいない食堂にかつおだしの香りが漂う。ここのうどんは結構いける。素うどん150円。ランチタイム前の飢えた若者を救ってくれる。金額も。
「これまで、素うどん150円とヨウジのヤクルト30円で180円やった。30×179、5370円返せ」
空になったヤクルトの容器をくわえながら言うと、
「イヤじゃ。ヤクルトで返したるわ。明日、お前が俺に勝ったらな」
ニヤッと不敵な笑いを浮かべるヨージ。なんや?勝算でもあるのか?
「アホやアホやと思ってたけど、ほんまもんやわ。ヨーイチ、計算は速いけどね」
毒を吐きながら近づいてきたタマの隣にはミコがいる。
「計算速かったら、なんとかなるんじゃ」
ヤクルトの容器をくわえたまま言った俺の言葉に、すかさずヨージがつっこむ。
「小学生までな」
ミコがクスクスと笑う。くっそー。
ミコがヨージに惚れてることくらいわかる。いつも視線の端でヨージを見ている。
多分、ヨージもミコに惚れてると思うけど、そこは声にださない。
なぜかはわからんが、とりま感謝だ。ヨージが声に出したら、ミコに告げたら俺は引くしかなくなるから。親友の彼女に手を出す最低人間になってしまう。
「ヨーイチヨージ、夏期講習何とるん?」
俺たちのうどんがのったでっかいテーブルの端に凭れるようにしてタマが言った。ミコに頼まれての偵察やな。クッソー。
「とりま、全部取る」
ヨージがうどんをすすりながら言う。
「はあ?あんた国立理系やろ?予備校行かへんの?」
タマは本気で呆れている。
「予備校、金かかるやん。学校はただやで」
ヨージはタマもミコも見ずにうどんを食い続ける。
ヨージはこんなだがなぜか頭がいい。生まれつきIQが高いのかもしれない。授業でもノートも取らずにボーっとしてるくせに、当てられたら正解を答える。定期試験も常に学年上位。この間の模試も国立大Bランクだった。
こんなぜーたくなヤツにミコまで取られたら、俺は悲しすぎる。俺は私立文系D大の社会学部でCランク。神様は不公平だ!
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