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【YO-JI 2】
「うるさい、うるさい、うるさい、うるさーい!!」
放課後の地学室にタマの叫び声。いつものことだ。俺もヨーイチも無視して続けていた。エレギとエレベだけで、アンプに繋がないでイーグルス。
ノートパソコンを閉じて、俺たちの方にタマがズンズンと来る。
「だから、なんでアンタらがここにおるん?!音楽室行け!」
いつもよりオカンムリだな。
「音楽室は吹奏楽部がつこてる」
タマの方を向かずに答える。吹奏楽部は夏の地元フェスに出演してから引退だ。
俺たち三年の定期テストは終わったけれど、一・二年はテスト前期間で部活は禁止。文芸部が活動に使っているここ地学室にも俺たち三人だけだった。
「三人やねんからええやんけ。BGMや」
ヨーイチの言葉にタマは頭をガシガシと掻いた。
「アンプにも繋がんと、シャンシャン、シャンシャン、気になって集中できんわ!」
タマはまたガシガシする。そう言えばミコがいない。
「勉強してんのか?ほんだら図書室行けよ」
俺の一言がタマを爆発させた。
「図書室、追い出されたんや!打つ音、煩いって!」
タマは閉じたPCを指さした。
「ここは文芸部の活動部屋なん!図書室で資料見ながらやろう思ったけど、追い出されたから帰ってきたん!なんでアンタらがおるん?!」
「だから、音楽室は」
言いかけたヨーイチが睨まれる。
「コンテストに出すん!高校生活最後の記念に!それ書いてるの!文芸部の活動部屋で!受験勉強せんと!時間ないの!静かにせえ!」
「おまえ、むちゃ言うなよ。静かに演奏て」
ヨーイチの無駄な説明にタマがキレた。
「だから、ここでするなあ!!」
叫んだタマの方を見ずに言った。
「地学のキーやんに許可もろてる」
キーやんは地学講師で、音楽活動をしている。ミナミの|ハコ(ライブハウス)のライブを見に行ってから、俺たちはナカヨシだ。
「キーやんやな。文句言うてきたる!」
いつもなら「まあまあ」とタマを止めるミコがいない。
「ミコは?」
聞いた俺をタマは睨みつけてくる。
「気になるんやったら、自分で探せっ!」
噴火してしまったタマはPCを片付けて鞄に入れると、プリプリしながら部屋を出て行った。
「あーあ、おまえが怒らした」
「ちゃうやろ?」
「ミコのことなんか聞くからやろ。タマの話、無視して。ミコは今日は塾の日やんけ」
そうか。なんでこいつ知ってんねん。
「ミコに聞いたん?」
「はあ?火曜は塾で水曜はピアノやん」
ああ、そうか。しかしヨーイチは、なぜそんなに。もしかしたらヨーイチもミコのこと? 隣でチューニングをしながら、ベンベンと弦をはじくヨーイチを見た。
「なあ、スラップどう?よくない?これでなんかやろうや、文化祭」
ミコの予定をさらりと言ったヨーイチは、もうそんなことは忘れたようにまたチョッパーで弦を弾いた。
思いすごしか。
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