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俺の声じゃない。外から聞こえたものだ。外? ……って、ここはどこだよ。俺の部屋じゃない。……んん? 俺、もしかして泣いてる?
喉を引きつらせて、それでも声は押し殺しながら泣いている感覚がある。
そんな俺を、誰かが抱きしめている。壁の隙間から差し込むかすかな光で、その顔が見えた。男だ。四十代後半くらいだろうか。泥かなにかで汚れているが、整った顔立ちをしている。
「藤助……」
俺の口は、弱々しく彼に呼びかけた。
「屋敷が、燃やされてしまったよ……使用人のみんなも、殺されて……ッ、」
「守継様……」
「天草はどこも一揆勢で埋め尽くされている。川田様の屋敷も打ち壊された。……どうしよう、藤助……」
口が勝手に喋っていることと、会話の内容から、またタイムスリップしたのだと悟った。そういえば現代とは空気が違う。
ええと、守継って、何代前のご先祖様だっけ?
考えようとするも、ご先祖様の記憶や思考は読めないのに感情だけはダイレクトに襲い掛かってくるので、うまく考えられない。
諦めて、少しでも現状を把握しようと目だけを動かして壁の隙間から外をのぞいてみた。煌々と燃え盛る炎の中に、農具らしきものを振り回す群衆のシルエットが踊っている。
「ここで終わるのが良いのかもしれません……」
藤助は虚空を見つめて、顔を歪ませた。
「もう、終わりにするべきなのかもしれません」
「どうして……どうしてそんなことを言うんだ。……私は、嫌だよ。生きたい。おまえと生きたいよ」
「守継様……」
俺を抱く腕に力が込められた。熱い体温に包まれているのに、冷たいぬかるみにはまっていくような心地がする。
「真守様……」
耳元でささやかれた名に違和感を感じたところで、視界が切り替わった。
目の前に、正座した牧がいる。しかつめらしい顔をして腕を組み、俺を見据えている。
そうだ、いま俺は牧の説教をくらっていたのだ。混乱する頭をなんとか働かせて、ここまでの経緯を思い出す。
「黙ってないで何かおっしゃってください」
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