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俺は、他人の身体に乗り移ることでこの世に留まっていられるが、それには条件があった。
身体は七十四歳になるまで何があっても死なないが、七十四歳になると――その代の真守様が二十四歳になった日、彼が命を落とす日に――必ず死を迎える。
そのとき、俺が初めて命を落とした年齢と同じ、二十六歳の男の身体にだけ入ることができる。
俺は命尽きる直前に、これまで使ってきた身体の親族のもとへ行き、息を引き取る。
そのあと身内が少ないか疎遠である者を選んでその身体に入り、真守様が産まれる場所へ向かう。
母となる女性には、執事の役目を遠縁の者に引き継ぐと伝えてある。
毎回、心はひどく重かった。
俺はこの身体の持ち主の人生を奪った窃盗犯だ。……いや、殺人犯だ。
入ったばかりで慣れないが、機敏な若い身体。その足を一歩一歩動かすたびに、黒い泥に沈んでいく心地がした。
けれど、生まれたばかりの真守様を目にすると、泥の上に一筋の光の糸が垂らされたような気がした。それにおそるおそる触れたとたん、胸の内に強烈な歓喜が湧きおこる。
また真守様と生きていける喜びが、罪の意識もねじ伏せる。
そうしてその糸に縋り付き、また繰り返す。
繰り返す人生、降り積もる想い。重なる傷。
四人目の身体を奪った俺は、とうとう精神的に限界を迎えた。
もう嫌だ。これ以上罪を重ねたくない。
……何より、もう真守様が死ぬ姿など見たくない。
自殺しようとしたが、生まれたばかりの真守様の笑顔が、首すじに当てた刃を下ろさせた。真新しい命。彼を育てなくてはならない。
育てた後で、また、葛藤する。
狂おしいほど愛していても結ばれない。真守様の身体には彼の遺伝子が入っているが、俺が乗っ取ったこの身体には俺の遺伝子は入っていない。他の男の身体で、真守様を抱けはしない。
俺は、次第に悟りだした。
これは、自分が死の間際に望んだ夢ではないだろうか。
真守様が二十四歳で亡くなるのは、俺がそれ以上年齢を重ねた真守様を知らないからなのでは。
俺が真守様と生きることを諦めれば……彼を愛することをやめれば、この夢は……呪いは、解けるのではないだろうか。
真守様は、二十四歳を超えて生きられるのではないだろうか。
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