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「牧……」
牧――桂史は、告げられぬ想いを紙に書いて、ここに埋めていたのだ。積もり積もった想いを吐き出すように綴られたこれは、彼の血肉。
下にいくにつれ茶色くなっていく紙を、土を掘り起こすようにかき分けていくと、一番下に、土と同化した紙に埋もれた古びた骨があった。
桂史の骨だ。
手を伸ばし、骸骨の頰にそっと触れる。
彼が、死の間際、そうしたように。
「ずっと俺を守ってくれて、ありがとう」
視界がぼやける。眼球が溶けそうなほど涙が溢れてくる。震える唇で、懺悔のように告げる。
「……でも、違うんだよ。おまえの願いだけがこの繰り返しを生んだんじゃない。……俺も、願ったんだよ」
あのとき、私はまだ死んでいなかったんだ。すぐに倒れて動かなかったから、毒が回りきるのに時間がかかったのかもしれない。
薄く開いたまぶたの隙間から、死んだおまえの顔を見ていた。
おまえは何も悪くないのに。私の世話役だったばかりに巻き込まれて死んでしまった。
おまえはこんな私に尽くしてくれたのに。
私はおまえのおかげで救われたのに。
私が、二十四歳まで生きてこれたのは、おまえがいたからなんだよ。おまえと生きていたかったから、頑張れたんだよ。
なのに……私はおまえに何も返せなかった。
頰に乗っているおまえの大きな手が、どんどん冷たくなっていく。
真っ白な闇が降りてくる。
おまえが見えなくなっていく。
凄まじい絶望に、私は息絶える刹那、肺に残った酸素をすべて使い、音を出せない喉を絞り上げて叫んだ。産まれて初めての苛烈な感情を、噴火のごとくほとばしらせて絶叫した。
嫌だ!
嫌だ!
私の唯一の希望を、奪わないでくれ!
離れ離れになりたくない! ずっと一緒にいたい!
――おまえと生きたい!
「……あの願いが、おまえの願いと結びついた」
二人の極限の願いが、そこから生み出された精神力が、互いの魂を、辿るべき道から引きはがしたのかもしれない。
自然の摂理を破った代償だろうか、生まれ変わった私は、初生で死んだ年齢までしか生きられなかった。
生まれ変わるたびにそれまでの脳の記憶は失われたけれど、魂に刻み込まれた記憶が少しずつにじみ出し、新しい脳を染めていった。俺がタイムスリップと呼んでいたあれは記憶を思い出していただけだったんだ。細かいパズルのピースをかき集めていたんだ。
どんどん鮮明になっていく記憶。
拾い集めたピースが全てはまり、描き出された、おまえとの歴史。
「……俺の大切な人は、愛せる人は、おまえだけだった。……そんなおまえの前で、俺は、他の人と結ばれていたんだ。おまえの痛みを知っていても、繋げるために。命を繋げるために。生きるために。おまえと生きるために……」
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