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ああ、またタイムスリップしてしまった。
回数多すぎだろう。
もういいよ、腹一杯だよ。
ん? 身体が動かない。縛られてるんだろうか。指先ひとつ動かせない。まぶたは動く。口は……うん、動く。どうやら首から上は問題ないらしい。しかし何だろうこの状況。眼球を動かしてみる。
梁がむき出しの天井。板材の隙間から藁が覗いている。土壁に一か所、木の格子がはまった窓がある。明かりはそこから漏れ入る自然光だけ。
ここはどこだ?
「真守様、入ります」
窓横の木戸が開いて、青年が入ってきた。つぎはぎだらけの粗末な着物を着て、長い黒髪をきっちりひとつに結っている。凛々しい顔立ちに浮かんだ微笑みはうっとりするほど爽やかだ。
「お食事をお持ちしました」
「ああ、悪いね」
口が勝手にしゃべった。別に驚かない。いつものことだ。
動かない俺の身体を、青年が支え起こしてくれた。そのまま俺の後ろに、背もたれ代わりに座ってくれる。
「さぁ、どうぞ」
後ろから腕を回して俺のあご下にお椀を持ち、その中に入ったお粥を、木匙ですくって食べさせてくれる。
味は……正直まずい。
作られてからだいぶ経っているのだろう、冷たいし、水気が飛んでぼそぼそしている。
でも俺の口はこう言った。
「ああ、おいしい。……おまえは、食べたのかい?」
「はい、炊事場の棚に俺の分も並べて置かれていますので……」
「そうかい」
「さ、ゆっくり召し上がってください」
青年はかいがいしく俺にお粥を食べさせてくれる。量が少ないのでお椀はすぐに空になった。
「ああ、おいしかった。ごちそうさま。ありがとうね」
え、ちょ、ちょっと待って、これだけ? たった一杯のお粥だけ? 足りない! こんなんじゃ俺のパワフルな身体は保たないっ!
……って、あ、あれ? でも、この身体は、この食事で満足してるっぽい。
青年は俺をそっと横たえて、空になったお椀を持って小屋を出て行ったが、しばらくすると桶を手に戻ってきた。湯気がうっすらと立つ桶に布切れをひたし、ぎゅっと絞る。
「お体をお拭きします」
「ああ、頼むよ」
いや、頼まないで。こ、こら、俺の帯を解くな! ……ってあれ、俺、着物着てたのか。
青年と同じような、つぎはぎだらけの着物とくたびれた帯が目の端にちらっと映った。その薄っぺらい着物の合わせを、青年はためらいなく開いてしまう。
きゃーっ! なんてことすんだこの変態! いたいけな童貞にっ! ……あ、でも、気持ちいい……。
俺の身体を拭く青年の手つきは丁寧で、とても心地いい。首、胸、腹、背中、両腕、両足、あそこ……
あ、あそこ!?
さわるなっ! そこはだめっ! というか見るな! 金とるぞ! ……あっ、
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