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「お前には何の能力もないだろう? それで一体、何の役に立つと言うんだ」
「なら、条件をください!」
「条件だと?」
「はい。認めてくれる条件を、オレにください」
「ふむ」
顎に手を当て考え込む彼を、悠衣らは固唾を呑み見守った。
長年途切れていた関係を、楽が結びなおそうとしている。
それを、社長は望んでいないのだろう。今日の話し合いのメインは悠衣の査定で、楽にまで話が及ぶとは、思っていなかったのだろう。
暫く黙り込み、やがてコクリと彼は頷いた。
「考えておこう」
「あ、ありがとうございます!」
そのままチラリとも三人に視線をやらず、彼は今度こそ部屋を出て行った。
ドアがパタンと閉じる音を確認すると、楽が悠衣に抱き着き、「やった!」という歓声が上がる。
「おめでとう、悠衣!」
「楽さんこそ、おめでとう!」
抱き合う二人を微笑ましそうに柊は見て、それから二人を包み込むように抱きしめる。
「頑張りましたね、二人とも」
泣き笑いしている互いの顔に余計に笑えてきて、柊の手を掴んだ悠衣は、ずっと離したくないと言うようにその手を両手で包み胸の前でギュッと強く握りしめる。
これからは柊と共に居ることを反対されず、共に人生を歩むことが出来る。
その事が嬉しくて、やっぱり涙が溢れて止まらなくなった。
悠衣が柊の番である事は、正式に公表された。
と同時に悠衣らが元兄弟であったことも公に曝され、やはり反発は絶えなかったが、柊が注目されるほどにその能力が露呈し、徐々に反発の声が減っていった。
楽も正社員ではないものの入職を認められ、何度も泣き言を零しながら頑張っているらしい。
――そして、今日。
空港にて柊と共に来た悠衣は、何とか笑顔を保ちつつ持っていた荷物を柊に手渡した。
「すぐに戻ります」
寂しそうな笑顔を見せる悠衣に、柊はポンと手を乗せる。
予定されていた通りの海外出張、数か月の離れ離れ。
例え覚悟を決めていても、寂しい事に変わりはない。
そんな悠衣の頭から下に滑らせ、手に移動した柊の手は、悠衣の指を掴んだ。
「僕がいない間、浮気なんてしたらダメですからね」
そう耳元に落とし、保安検査場へと向かう。
何だか含みのある言葉に、悠衣はパッと自身の手を目の前にかざした。
そこには、シルバーのシンプルな指輪が、嵌めてあって。
「いってらっしゃい!!」
もう行ってしまう柊にそう叫べば、柊は微笑み「はい」と頷いてくれた。
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