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「できました」
そして何とか十五分以内に仕上げると、側で待っていた社長へと出来た文を手渡す。
早速目を通す光景に、冷や汗が首を流れる。
こんなの、今までのどの試験よりも緊張してしまう光景だ。
大学入試も怖かったが、それは事前に模試などで自分が合格からどれくらい離れているのか、その日の手ごたえはどうだったのか、予測し心構えが出来た。
だが今日のこれは予測などできやしない。
結果は全て彼の裁量にかかっている。
合格だったらどうとか、不合格だったらどうとかは分からないが、いきなり行われたこの試験、柊との関係を認めてもらうためにも、乗り越えなければならない。
「ここと、ここと、それからここも。訳がズレている」
そして数分の後、彼は冷酷にそう放った。
「……あ」
「複数の意味がある単語を何となくで捉えるな。些細な違いでも違いは違い、人に説明できる、もしくはこうして訳しても突っ込まれないくらいには落とし込め」
「……はい」
ダメ、なのだろうか。
いきなり与えられたこの試練を、乗り越える事は出来ないのだろうか。
「話は以上だ」
不安を滲ませる中、残酷にもそんな声が落とされる。
悠衣に目もくれずドアまで真っ直ぐと進んだ社長は、そのままドアノブに手を掛けた。
(ダメ、だった)
自己紹介をする事すら許されず、与えられた唯一の試練も条件をクリアできなくて、柊との番を認められなかった。
「一つ言っておくが」
自己嫌悪で涙が目尻から溢れそうになっていた悠衣に、社長は背中を向けながら淡々と声を落とす。
「後継ぎとして、一人はアルファを産む事、これだけは譲れないからな」
「……え?」
そのままドアを出て行こうとする社長を、楽は一瞬悠衣に視線を向け、それから「あ、あの!」と社長を引き止めた。
「待ってください!」
「……なんだ」
「あのっ、オレも……オレも、この会社に入れてください!」
「なにを言っている」
相変わらず冷淡な声をした社長は、首だけ振り返り楽を見やる。
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