2 柊の葛藤

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「もうすぐホームルームが始まりますね。では、行ってきます」  どこか心ここに在らずな柊の様子に荒木も気づき、苦笑いをしながら去っていく。  それを苦笑しながらも、柊は見送った。 「悠衣。起き上がれますか?」  噂話を聞こえなかった振り、気にしていない振りをして何とか帰ってきた柊は、夕飯、栄養も取らなければと思い、今日はチャーハンを作り、悠衣の部屋に踏み入った。  オメガに抑制剤があるように、アルファにもオメガのフェロモンにやられないように抑制剤が存在していた。  それを飲んだため初日よりはフェロモンにやられなくなったものの、それでも甘い香りが鼻をつく。 「悠衣?」  返事をしないと思ったら、悠衣は毛布を被って眠っていた。  丸まって穏やかな吐息を立てる悠衣の髪をかき分け、愛おしそうな瞳を柊は悠衣に向け、固く閉じられている瞼に唇を落とし、前髪をいじくる。 「悠衣……貴方が、弟じゃなければ良かったのに」  弟じゃなければ、こんなに悩むこともなかったのに。  その甘い唇を、発情期であっても、味わうことができたのに。 「けれど……弟じゃなければ、貴方とは出会えていなかったかもしれませんね」  柊と悠衣の年齢は、八歳離れている。  こんなに離れていれば、同じ学校に学生として通うことは無く、街ですれ違っても互いに互いの存在を認知する事などないだろう。  兄弟だからこそ、こうして今互いの存在を大切だと、何にも代えがたい存在だと言える距離にいるのだ。  悠衣の側にいないよりは、いる方が良いに決まっている。  そこだけであれば、兄弟でいればよかったとも言える。  でもそれでは納得できないのは、きっと――。
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