君が語る初めての言葉を

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 雨の日はいつも実入りが悪かったので、その夜も大して期待をしていなかった。 場末のハッテン場のゲイバーが、おれのお定まりの河岸だった。 おれは、定位置の一番奥のカウンター席で『獲物(きゃく)』を待った。 ――まるで、蜘蛛が巣を掛けるように。  幸いにも思っていたよりもすぐに、客は引っ掛かった。 カウンターには他に空いている席もあるというのに、わざわざおれの右隣へと男が座ってきた。  見たところ、年齢は四十代半ばくらいだった。 身なりが良い、――つまり、金を持っていそうだった。 地味だが、高価(たか)そうな銀縁の眼鏡の奥で、一重の目が静かに笑っている。 ぱっと見ただけだったが、イヤらしいところは少しもない。  その男がおれへと持ち掛けてきた『プレイ』は、『これから一緒に、クリスマスイルミネーションを観る』といったものだった。 以上、終わり。 その後は何もしないで、ただ、それだけ。 ――それだけで、五万出すと言ってきた。  一晩、至れり尽くせりのフルオプションで過ごしたとしても、相場で五万は高価(たか)過ぎた。 おれは疑いの目そのままで、男を見たと思う。 いや、見た。  男の顔は困っているようにも、照れているようにも見えた。 そのままの表情で一万円札を五枚、カウンターの上へと広げた。  そこまでされれば、――されてしまえば、おれとしてはもう、うなずくことしか出来ない。 商談成立の印に、手付け金として一枚だけもらっておく。 本当は全て、前金で欲しかった。 残りは他の客の手前上、急いで仕舞わせた。
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