24人が本棚に入れています
本棚に追加
雨の日はいつも実入りが悪かったので、その夜も大して期待をしていなかった。
場末のハッテン場のゲイバーが、おれのお定まりの河岸だった。
おれは、定位置の一番奥のカウンター席で『獲物』を待った。
――まるで、蜘蛛が巣を掛けるように。
幸いにも思っていたよりもすぐに、客は引っ掛かった。
カウンターには他に空いている席もあるというのに、わざわざおれの右隣へと男が座ってきた。
見たところ、年齢は四十代半ばくらいだった。
身なりが良い、――つまり、金を持っていそうだった。
地味だが、高価そうな銀縁の眼鏡の奥で、一重の目が静かに笑っている。
ぱっと見ただけだったが、イヤらしいところは少しもない。
その男がおれへと持ち掛けてきた『プレイ』は、『これから一緒に、クリスマスイルミネーションを観る』といったものだった。
以上、終わり。
その後は何もしないで、ただ、それだけ。
――それだけで、五万出すと言ってきた。
一晩、至れり尽くせりのフルオプションで過ごしたとしても、相場で五万は高価過ぎた。
おれは疑いの目そのままで、男を見たと思う。
いや、見た。
男の顔は困っているようにも、照れているようにも見えた。
そのままの表情で一万円札を五枚、カウンターの上へと広げた。
そこまでされれば、――されてしまえば、おれとしてはもう、うなずくことしか出来ない。
商談成立の印に、手付け金として一枚だけもらっておく。
本当は全て、前金で欲しかった。
残りは他の客の手前上、急いで仕舞わせた。
最初のコメントを投稿しよう!