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「はあ……光希ちょっと疲れてるんじゃない?」
「うーん、まあここ最近バイトもあるし、大学の授業で忙しいんだよね」
「光希まだ高校生でしょ?なに?大学って。しかもバイトは光希の家では高校卒業後じゃないと許可下りないじゃん」
「いや、だから俺は、未来から来たんだってば」
ハッキリとそう言ってブレないその答えに、ため息をついた。
どうしちゃったんだろう、光希。
いつもと違うそれは分かるけど、確かに光希は光希なのに。
少しだけ遠く感じるこの距離に、寂しさを感じてしまう。
「大丈夫だよ、明莉」
そんな私に光希は、ぽんと頭を優しく撫でた。
予期せぬ光希のその行動に、心臓をバクバクさせていると嬉しそうに笑う。
「俺は、本当に未来からやって来たの」
「だ、だからそれは信じられないってば」
「じゃあ、俺がさっき言った、明莉の明日の未来が当たってたら信じてくれる?」
確か明日遅刻して、財布忘れて、お昼食べられなくて、それで皆に笑われる。
そんな未来の予測が、的中するとでも思ってる光希がよく分からない。
仕方ない、ここは光希のゲームに乗ってやるとしよう。
光希のことだから、あーあ!ハズレちゃった〜なんて明日には言うはずだから。
「……分かった、いいよ」
「半信半疑って顔」
私の額を人差し指で突き、苦笑しつつ席を立った。
また廊下から一つ足音が聞こえてくると、光希は慌てて教室から出ようとする。
「じゃあ、また“明日”ね」
そう言ってひらりと手を振って、すっと教室から出て行った。
今日一緒に帰れないんだ、肉まんでも買って帰ろうかって朝話してたのに。
ため息をついて再び日誌を書くために手を動かす。
すると再び誰かが教室へ入ってきた。
「明莉〜?」
バッと勢いよく振り返って教室の後ろを見ると、ジャージ姿の光希が現れる。
今度はいつも通りだ、雰囲気も格好も。
「光希、私をからかうならもう少しまともなのを用意してよね?」
「からかう?なんの話し?」
「とぼけるの〜?さっき話したばっかりじゃない」
「俺、今まで部活行って今戻ってきたんだけど……?」
明らかにとぼけてるというより、本気で分かってない光希の顔を見て、私は頬をつねる。
痛い、ちゃんと痛い。
いや、待てよ?確かめるのならさっき確かめなきゃじゃん。
私はさっき夢を見ていたの?それまた……おかしなものを見たの?
腕を組んで考えるけれど、答えなんかは出てくるわけもなく、光希がなんか面白そうに笑ってくる。
「日誌終わった?」
「あ、あと少し」
「今日は肉まん一緒に買って帰るんでしょ?待ってるから、ちゃんと終わらせてね」
なんだ約束ちゃんと覚えててくれてたんじゃん。
でも、さっきのは何だったんだろう?
日誌を書いて少し頭がぼーっとしちゃったのかな……なんて考えてても仕方ない。
肉まんと一緒に帰ってくれる光希のために、再び日誌を書くことに集中した。
そのままいつも通りの光希と共に肉まんを買って、いつも通りの1日を終えた。
あの変な光希は一体なんだったのか、糸が絡まったようなそんな気持ちを胸にしまいながら。
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