理想と欲望の狭間で

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私はグラスを持つ安達くんの手首に噛みついていた。 私の目の前で安達くんは目を丸くして驚いている。 しまったって顔して手首を慌てて離すと、若干痛そうな顔をしながら安達くんがニヤリと笑った。 やってしまった… 私もう生きていけないよ。 みんな見たよね?今の。 恐る恐る振り返ると 二十数年間彼女なしの=生まれてから一度も付き合った事がない日下部(くさかべ)くんに彼女が出来たらしく 彼女の写メを一目見ようとみんな日下部くんの回りで大騒ぎしていて誰一人、私の奇行を見ている人はいなかった。 ホッとしたのもつかの間 謝らなきゃ 安達くんに向き直ると 「ごめんなさい。痛かったよね?」 と様子を伺う。 「ああ。」 と言って手首の歯形を私に見せる。 手首に歯形つけたの久しぶり、 思わずうっとりして頬擦りしそうになるのを必死で堪える。 何て説明すればいいんだろうと悩んでいると 「お前さ、この後暇?」 って聞かれた。 私が、ん?って顔をすると 「この後、付き合えよ。そしたらチャラにしてやる。」 ちょいちょいちょいちょい ちょいお待ち この後、付き合えだと? チャラにしてやるって… もしかして安達くん、私の体を求めるつもりかしら? この際、あの手首の持ち主に抱かれるならそれもいいかも オマケに初体験も済ませられるし 案外いいじゃん! いや、待てよ 噛みつき女の体を求めたら処女って さすがの安達くんも引くんじゃない? どうしよう… ひきつりながらも何とか同期会はお開きになり 店の前で、まだ時間に余裕あるしカラオケ行く?なんて話も出てるけど 「悪いけど俺と荒川、帰るわ。」 って私の肩を抱き寄せて、みんなに言う安達くん。 その瞬間、同期達が口々に えーっマジで!? お前らいつから?だの ざんねーん、安達くん狙ってたのに。だの 同期カップル誕生を祝して万歳までしだしたので取り敢えず、安達くんとその場から逃げた。
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