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理想と欲望の狭間で
あの日から私の心は完全に安達くんの手首に捕らわれてしまった。
寝ても覚めても思い出すは袖口から覗くあの御手首…
正直、同じデパートに勤めていてもほとんど会うことのない安達くんの顔なんかハッキリと浮かばない。
何か無愛想な感じだったよねってくらい。
けれど安達くんの手首は目を閉じれば直ぐに鮮明に浮かんでくる。
ああ、あの手首に触りたい。
そっと頬づりして…
軽く握って…
そしてーーー
思いっきり歯形が残るほど噛みつきたい。
ダメだダメだ。
仕事中だぞ。
と気を引き締めているとレジ横の電話がなる。
短めのコール音なので内線だな。
外線からの電話の場合でも交換台から取り次ぐ事になっているのでほとんど内線呼び出ししかならないけれどね。
「はい、子供服売り場の荒川です。」
「時計宝飾品売り場、安達です。お疲れ様です」
あ、安達くん!!
って電話でも相変わらずの棒読みだなぁ。
「お疲れ様です。」
声のトーンを上げて言う。
「時計修理できました。失礼いたします。」
こちらが何か言おうにもガチャッって一方的にそのまま切れてしまった。
いやいや、安達くん。
研修で習ったよね?
電話の受け答えの仕方。
まっ、しゃあないか安達くんだし。
休憩の時にでも時計は取りに行くか。
って、ちょっと待てよ。
これって、もしかして安達くんの手首を見るチャンス到来って事?
あー早く休憩にならないかなぁ。
待ちきれないよ。
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