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魔王様は光属性!!
光属性は神に由来する聖なる属性である。人間たちの中では最も尊いものだと考えられていた。逆に闇属性は混沌に由来する邪悪な属性である。人間たちに忌み嫌われていた。
だから魔王を討伐する勇者は人間の中でも強い光属性の青年だった。魔王の属性は闇に決まっている。ほとんどの人間たちはそう思っていた。一部教会の人間だけは真実を知っていたが誰も口を開かなかった。
魔王のところに行くまでに色んな属性の魔物がいる。だから勇者の仲間も多くの属性を持つ者たちがいた。火属性の巫女、水属性の槍使い、風属性の弓兵……。
その中に唯一王族でありながら厳しい旅に同行させられた姫がいた。姫はその属性故に王家で厄介者扱いされ、勇者の一行の中でも煙たがれた。そう、彼女の属性は闇だった。
勇者たちは知らなかった。魔王に相対するまで、魔王にあったことがなかったのだから当然とも言える。
「な、何故?!」
「嘘……!!」
「どうして……?」
「「「「「どうして魔王が光属性なんだ!!!?」」」」」
全く攻撃が通らない魔王の属性を理解して勇者たちの表情が絶望に染まる。豪華な椅子に足を組んで座っていた魔王はため息をついた。
「どうして我を魔王などと呼ぶのかは理解できないし、するつもりもない。だが、光属性で我を討とうなどと笑い話にしかならぬ。」
魔王は笑いながら自分の唇をなぞった。
「全ての光属性は我に由来すると言うのに。」
そう、魔王と呼ばれる存在は、神と信じられる存在と同一だったのだ。
勇者たちは顔を真っ青にして逃げ出した。その時勇者は闇属性の姫に怒鳴りつけるように言った。
「お前が、お前がもっと努力していれば良かったんだ!!」
その言葉には嫌悪も憎悪も含まれていて、姫はその感情に足が動かなくなってしまった。姫の属性を嫌っていたから彼女のレベリングを怠ったのは勇者の決断だ。パーティの責任だ。けれど全ての責任を被せられても姫はその通りだとしか思えなかった。自分がもっと強かったら魔王をどうにか出来たかもしれないのに。
だから彼女は足が動かないのを良いことに魔王に一人で向き直った。どうせ帰る場所なんてない。強くならなった自分が悪いんだから、ここで勇者たちを逃がすのは正しいことだ。
勇者たちがすっかり逃げて、たった一人魔王の間に立つ少女に魔王は瞳を瞬かせた。
「ふむ、恐怖故に動けぬか?」
そう尋ねておいて魔王にはその問いがすぐに正しくないことが分かった。少女は一人取り残されようとも強い意志を持って魔王を睨みつけていたからだ。その鋭い眼差しが、魔王にはとても眩しいものに感じられた。
(あの勇者一行は許さないとしても)
さて、目の前の少女をどう扱うべきか。魔王と呼ばれた彼はとりあえず少女に敵意を向けるのをやめる。少女は驚いたように目を見開いた。その拍子に輝く宝石のような瞳からは涙が数滴零れ落ちた。少女は勇者一行の中でも一番、目に見えてレベルが低かった。育成を疎かにされていたのは確かだろう。装備も最低限のものだった。しかしその仕草は美しく、ただの村娘ではないことが感じられた。
「そなた、どこぞの姫君か?」
尋ねれば少女は肩を跳ねさせた。どうやら自分の予想は合っていたらしい。姫は視線を彷徨わせる。その弱弱しい態度と先ほどの鋭い視線の落差が面白いと思った。きっと彼女は元々気弱な姫なのだろう。それがどうして旅に出て、あそこまで強く魔王に相対出来たのか。そんなに強く感情を動かせる彼女が他の感情を宿すのを見てみたいと思った。
豪華な椅子から立ち上がって姫に歩み寄る。
「とりあえず我と一緒に暮らしてみるか?」
「……は?」
魔王が見た彼女の瞳には常に涙が浮かんでいた。そんな表情ではなく、逆の表情が見てみたかった。差し伸べた手に姫は戸惑いながらもその手を重ねた。姫の手は思っていたよりも小さくて冷たかった。
魔王と呼ばれて、討伐を目指されている彼は神らしい。はるか昔に人間が世界をおさめる手助けをしてくれた大いなる存在。全ての光属性は彼に由来しているらしい。神を崇める教会の一部の人間はそれを知っているはずなのに、勇者に何も伝えなかった。
人間が世界をおさめられるようになってしまえば大いなる力を持った存在は不要だから排除しようと思ったのだろう。魔王が神で、全ての光属性の祖だなんて言えやしないよな。
そう思いながら、きっと文字通り全ての光を集めた金色の髪を撫でる。この神が私に手を差し伸べてくれたその瞬間から、この神は私にとっての光だ。闇属性として王家に生まれてしまった私はずっと嫌悪やら死を願う呪いやらをこの身に受けて生きてきた。
勇者たちとの旅路でも同じだった。強い光の力を持つ勇者ならもしかして闇属性の自分の心も照らしてくれるんじゃないかと期待したこともあったけれど、その勇者も他の人間と変わらなかった。世界を救うはずの勇者から向けられるのは憎悪さえ入り混じった感情。
「辛いことは、考えなくてもいい。」
ふと目元を拭われて驚く。膝の上で眠っていたはずの神は、いつの間にか起きて心配そうに眉を寄せていた。
「そなたの闇は、静かでとても心地いい。」
そう言って、私の闇属性を唯一肯定してくれる。私の光でもある神様。彼は言う。光は確かに好かれているのかもしれないが眩いばかりでは疲れてしまうのだと。休息に夜が向いているように闇だって必要なのだと。
「私も、あなたの傍にいるとても心地いいです。」
そう言えば神は目をぱちぱちさせて、
「そうか、俺はそなたが傍にいるのが心地いいのだな。」
と勝手に納得した。勝手に熱くなる顔を見られないように私はそっぽを向くことで精いっぱいだった。
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