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本木邸、静江の部屋
「静香様...本当にここから移られるのですか?」
書斎で荷造りする静江を手伝いながら志乃が問うた。
「ごめんなさいね、もうここに居る理由がなくなったの。
旦那様のご遺族に返すのが当然だもの...その分志乃さんの就職先も決めておいたから許して?」
「そんな...わたしのご心配などなさらなくても!それにわたしは静香様さえ良ければこれからも...」
「志乃さん?もうその名で呼ばなくてもいいわ。
静江でいいのよ?...もう名を偽る必要もなくなったのだから。
それにあなたの息子に言われてるの」
「斗真が何を?」
「母さんの手料理の美味さをいろんな人に食べて欲しいから、そんな商売始めたいんですって。
未来のお嫁さんと一緒に小料理屋を始めるつもりらしいわよ。
だからあなたの力が欲しいんだって」
「まぁ!」
息子の夢に必要とされ、一緒に過ごせる日がまた来るのかと思うと志乃は嬉しそうに涙を浮かべた。
「さぁ、あと少しよ。志乃さん、頑張りましょう?」
「は、はい!」
全ての荷造りを終えた静江は1人部屋で若き頃自分を支えてくれた老人の画を見上げた。
「終わりました...思っていた結末とはちがいましたが、今はこれで良かったかと...。
あなたがワタシを拾って下さらなかったら...今のワタシはなかったでしょう、ありがとうございます」
深々と頭を下げ、頬には笑みが零れていた。
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