絶望と死

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絶望と死

**********     何時もと変わりなく春菜がデスクで仕事をしていると、春菜のスマホの着信音が鳴ったので…確認してみると、市川真司からだった。 以前した約束を春菜は思い出して…慌ててその電話に出ていた。 春菜が電話に出ると、真司は淡々んとした調子で 今から、霊能者を連れて『1111号室』の前で待っていると要件だけを告げてすぐに電話を切ってしまった。 少し不安では、あったが… 責任感の強い春菜は、真司との約束を守らなければと… 化粧室で、鏡に向かい自分の頬を両手で叩いて気合を入れていた。 …そして、昼休みに入るとすぐに春菜は『1111号室』の鍵を持って、社用車に乗って幽霊マンションへ向かった。  真司が、待っているだろうと急いで『1111号室』まで春菜が行くと…何故か玄関のドアが開きっぱなしになっている。 不審に思いながらも…春菜は、真司が中にいるものと信じて中へ入って様子を伺っていた。 「市川さん。いるんですか? や、山下です。…市川さん?」 【ギィィィ―――――――――!!】  【ギィィィ――――――――!!】 【バタァァァァ―――――――ン!!!】 「えっ!? ちょっと! 嘘? 嫌だ…何?」  春菜が、完全に部屋の中へ入ったと同時に…あの鈍い音と一緒に玄関のドアが物凄い勢いで閉まってしまった。 春菜は、後ろを振り返りドアを開けて外へ出ようとしたが、ドアは固く閉ざされていて開かなかった。 「嫌だ! 嘘! 嘘! 誰か! 誰か! 開けて! 出して! お願い!!」 【ギィィィ――――――――!! ギィィィ―――――――!!】 「ひっ! ひゃっ!?」 春菜は飛び上がって、響き渡るあの鈍い音に驚いて耳を塞いでいた。 そして、身の危険を感じた春菜はどうにかして身を隠そうと、すぐ近くにあった真司の書斎だった部屋のドアを開けて中へ入った。 【ギィィィ――――――――――!!】 【ギィィィ―――――――――――!!】 「コロス……ミナゴロシダ……クククク」 鈍い音と一緒に、男の不気味な囁きが聞こえてきた。 驚いた春菜は、慌てて身を縮めその部屋のクローゼットへ隠れていた。 【バタァァァァ―――――――――――ン!!!】 クローゼットの隙間から、外の様子を覗いていた春菜はゾッとしていた。 それもそのはずだった。 恐ろしい音をさせて、部屋のドアを開けて入って来た化け物が、霊能者を連れてこの部屋へ来るはずの市川真司だったからだ。 血がベットリと付いた大きな鉈を片手に持ったまま、とても生きている人間とは思えない不気味な形相で真司が部屋の中を歩き回って春菜を探している。 「コロス、コロス。ミナゴロシダ……クククク」 (嫌だ。死にたくない。誰か助けて! 誰か! お願い!) 春菜は、必死に恐怖で震えている指先で先輩の笹川にメールを送信していた。 【ギィィィ―――――!!】  【ギィィィ――――――!!】 必死で身を潜めて春菜は、真司に見つからないようにと…スマホの電源をオフにしてから、社用の携帯電話をマナーモードにして握りしめていた。 【ピピピピピピピピピピピ!】 (えっ!? 何故? 私の着信音じゃない!?) 0733a959-936a-4360-b6ac-f52c21df5ff7 ふと…春菜がクローゼットの反対側の隅を良く見ると、小さな少女がこちらを見てニヤリと意地悪く微笑みながら、自分の手にしている携帯を春菜の方に差し出していた。 【バタァァァァ―――――――――ン!!】 「イヤァァァァァァ―――――――!!」 【グシャッ!! グシャッ!!】 「ギャァァァァァァ――――――――!!」 【グシャッ!! グチャッ!!】 勢い良くクローゼットの扉が開かれた瞬間… 真司は、春菜に向かって大きな鉈を容赦なく振り下ろしていた。 【グシャッ!! グチャッ!!】 【グシャッ!! グチャッ!!】 「フフフフ♪ アハハハハ♪」 春菜の身体を切り刻む鈍い音と一緒に…。 少女の気味の悪い笑い声が、部屋中に響き渡っていた。 ***************  昼休みが終わって、2時間以上たっても…後輩の春菜が、社内に帰って来ないのを不審に思った笹川は、昼休みに持って出るのを忘れていた自分の社用の携帯電話を慌てて確認していた。 携帯には、未読メールがあり…それは、やはり春菜からのものだった。 [1111号室に閉じ込められています。助けて下さい! 殺される!!] 笹川は、メールの内容を目にして絶句していた。 「だから、あれだけあの物件には近付くなって言っておいたのに…」 笹川は、急いで警察へ通報してから『エーデルハイム葉山』へ向かった。 笹川がマンションへ行くと… すでに2台のパトカーが停まっていて、管理人室へ走って行くと…部屋の前に立っていた2人の警官に止められて、中で人が殺されていて管理人室へは入れないと…笹川は青い顔をした警官から説明を受けて愕然としていた。 「1111号室は? うちの社員の山下春菜が閉じ込められているはずなのですが」 「残念です。山下さんと思われるご遺体が酷い状態で発見されました。今は、死亡原因と身元確認の為に司法解剖へ回されています。部屋の入り口も封鎖されていて一般の方は入室出来ません」 「そ、そんな…マジかよ…春菜…」 警官の言葉を聞いて、笹川は頭を抱えてその場に膝をついてへたり込んでしまった。  その後、不思議なことに警察がマンション内の防犯カメラの映像を確認して犯人を特定しようとしたが、そのカメラの映像には何故か市川真司の姿が全く映っていなかった。 *************** その頃、真奈美は…修子と自宅へ一度帰宅していた。  事件のことを知らされた真奈美は、顔を青くしていた。 犯人が真司だと、確信していたからだ。 真奈美と修子は、すぐに直之に連絡を入れて3人で師匠の所へ身を移すことにした。 「やはり…兄は、怨霊に取り憑かれて…殺人鬼になってしまったに違いありません」 「真奈美さんは、家に帰らないで暫くはここにいて下さい。貴方の能力を知られたら、怨霊が貴方を殺そうとするはずです。ご両親にも連絡を入れて、気を付けるように忠告しなくてはいけません。祓うことは、出来なくても身を守る術はあります。大丈夫です」  師匠に言われて、真奈美は、実家へ連絡を入れていた。そして、今までの事を包み隠さず話して…真司には、呉れ呉れも気をつけるようにと両親に伝えておいた。 「兄は、あの墓地に潜んで次の獲物を探しているのかも知れません。あの怨霊を祓わない限り…ずっと、こんな事が繰り返されるのですね」 「祓いたくても祓えない…邪悪なものは、この世のあちこちに潜んでいるのです」 師匠は真奈美に深く頭を下げると、怨霊を祓う手立てが今の自分に無いことを悔しそうに告げていた。 「祓うことが出来ない…と言う事は、絶望的…ですね」 「そうですね。こんなに強い怨念が…集まって出来た悪霊に…私も出会ったことが無かったのです」 「もしかしたら、あの人なら…。あ、いえ…きっと、あの人でも…無理よね」  少し…意味深なことを修子は口にしていた。 だが、それ以上は語ろうとせず。ただ、苦笑していた。 その後で、修子も師匠も直之や真奈美の身を守る事が今は2人に出来る限界なのだと話していた。 もしも、祓えるとしたら… それは、真奈美が自分の本当の能力に目覚めた時だと言う事を師匠と修子は真奈美と直之の2人には、敢えて話さないでおいた。
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