第一章 港町の設計士

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 アビススライムを無視してしばらく歩いていくと、野太い男の悲鳴が聞こえた。柊吾は立ち止まり耳を澄ます。 「……あっちか」  すぐに魔物の雄叫びも聞こえ、状況を確認すべく肩に担いでいた素材入りのゴム袋を物陰に置いて駆け出した。  何軒か破壊された家々を越えた先――村の広場のような場所で戦闘が起こっていた。 「……『カオスキメラ』か」  立ち止まった柊吾の足が震える。クラスBの凶悪な魔獣だ。カトブレパスよりもさらに一回り大きく、上半身から顔にかけてはライオン、下半身から背中にかけてはヤギ、尻尾は六又に分かれ、それぞれ尾の先が蛇の頭になっている。  見たところ、対峙しているのはカムラの討伐隊だ。立派な甲冑に身を包んだ騎士や厚めのレザーアーマーで素早く動き回る戦士、紺のローブに杖を振るって魔法を打ち出す魔術師の十人編成だ。とはいえ、既に三人は血だまりに突っ伏している。  柊吾にとって、ここで加勢するのが得策ではないことなど明白だった。
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