序章 絶望の異世界スタート

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「君、笑って、いるのか……」  男が顔を引きつらせ声を震わせる。まるでなにかおぞましいものでも見ているかのような反応だ。  男が固まっているとすぐに一人の女が部屋に入って来た。彼女は手に木製の長い杖、全身を赤の線の入った白装束で覆って顔の下半分も白のベールで隠しており、まさしく白魔術師といった風貌だ。金髪で耳の先が長く尖っていることから、すぐにエルフを連想した。柊吾が目を輝かせていると、女はすぐに何事かを呟き柊吾へ手をかざした。 (間違いない……ここは剣と魔法の世界だ!)  しばらくすると、治癒魔法のおかげか体が動くようになった。男と女は「安静にしておくように」と、柊吾へ告げ部屋から出て行った。  夢心地でこれからのことに想いを馳せる柊吾だったが、そこで初めて大事な見落としに気付く。 「……え?」  ようやく首は動くようになった。しかし両腕も両足も反応しない。いや、そもそも感覚がないのだ。柊吾は嫌な予感にバクバクと心臓を響かせながらも、顔を右へ向け右腕の状態を見る。 「――っ!」  衝撃に目を見開く。『右腕が無かった』。左に目を向けると左腕がなかった。その感覚は両足も同様で―― 「……う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」  その絶叫は、未だ声変わりもしていない穢れなき少年のものだった。  カジ・シュウゴ、十二歳。とある村で魔物に襲われ、両腕と両足を失くした。周辺には大量の死骸が散乱しており、彼が村の最後の一人として魔物に喰われる寸前で港町『カムラ』の討伐隊に助けられた。身内は皆死亡しており、ショックで記憶を失った彼はカムラの孤児院に引き取られ、療養を余儀なくされる。  それが、この世界における柊吾のスタートだった。
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