第一章 港町の設計士

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 長い戦いだった。  協力者など見つかるはずもなく、一人で街の外に出てひたすら素材を集めた。高ランクの鉱石など、そうそう見つかるものではなく、外を彷徨っている『アビススライム』が食事で体内に取り込んでることに賭け、ひたすら狩った。港町カムラの『広場の掲示板』や『バラム商会』からかき集めた末に辿り着いた可能性だ。スライムの体内からアイテムを入手できる確率が1%未満であろうと、それ以外に方法はない。  魔物の素材収集についても困難を極めた。カトブレパスやイービルアイなど、街の討伐隊ですら複数のパーティーで挑んでようやく倒せるレベルだ。柊吾に勝てるはずもない。だから、討伐隊が倒し、素材回収後の捨て置かれた死骸を狙った。特に、魔物を倒したものの素材回収する前に討伐隊が全滅したときは幸運だった。そのぶん何度も死にかけたが、百回を越えてからはもう数えていない。 杖は魔導書のようなもので各系統の魔術を内包しており、それを以てすれば人間でも魔法が使える。それらはバラム商会の商人が取り扱っており、魔物のコアや魔術活性素材を凝縮して製造するため、とてつもなく高価だった。  長いこと戦い続けた。素材を得るため、金を得るため、魔物から逃げ回りながら無様に生き抜いた。ゲームのように巨大な剣を満足に振るうことはできず、高速ステップのような俊敏さはなく、高く飛び上がって敵の急所を狙うことも叶わない。柊吾は死にかけるたびに思った。モンスターイーターのようにもっと軽々と剣を振るい、高速で移動、跳躍できれば……と。しかし今の柊吾にとって、これは紛れもない現実だった。  ただひたすらに知識を蓄え、異世界の未知の技術で試行錯誤し、戦場で感覚を研ぎ澄ますことで心も生まれ変わっていく――
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