第二章 闇に眠る忠誠心

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第二章 闇に眠る忠誠心

 ある日の夜。柊吾は珍しく酒場に足を運んでいた。カムラの中央にあり、夜はクエストの達成感に酔いしれたいハンターや、一仕事終えて慰労のために訪れる討伐隊員らがよく訪れる。  柊吾は喧騒の中、ダークブラウンのテーブル席の隅で一人、肉と酒を楽しむ。ここはバラム商会が運営の助勢をしており、料理も酒も格安な割に質が良い。 「――あれぇ? あんた、シュウゴじゃないかい?」  突然横から声を掛けられた。柊吾が驚いて声の主を見上げると、そこに立っていたのは、昔孤児院で一緒に暮らしていた『アン』だった。ウェーブのかかった短めの銀髪を後ろで一つに束ね、肌は褐色で肩やへその出た露出度の高いレザーアーマーを身に着けている。まるでゲームによく出るアマゾネスといった風貌だが、実は獣人族で頭にちょこんと生えている角は牛のもの。  男勝りな性格に怪力で、よくガキ大将のように振舞っていた。柊吾もよくからまれたが、そこは元大人の余裕で適当にあしらいあまり関わらないようにしていた。  とはいえ反応しないわけにもいかないので、柊吾は愛想笑いを浮かべる。 「やあ、久しぶりだね、アン」 「やっぱりあんただったか。邪魔するよ」  二カッと無邪気な笑みを弾かせたアンは、柊吾の許可なく向かいに座る。彼女の頬は赤くなっており、所作からも酔っていることがよく分かる。
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