比叡山にて

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何年か前に母と旅行に行った時の話です。 滋賀県にある「おごと温泉」に一泊し、翌日は比叡山に行く予定でした。 「おごと温泉」は、琵琶湖の南西に位置し、最澄によって開かれたと伝えられる歴史ある温泉です。後方には世界遺産である「比叡山」があります。 運悪く朝から雷鳴が鳴り響く豪雨で(どうも私は雨女らしいです)、しかし折角なので「とにかく行ってみよう」と「坂本駅」からケーブルに乗り、比叡山へ。 天気が天気なだけに駅にも人は居らず、乗客は私達だけでした。 幸い、山頂に着いた頃には雨も止んでいました。駅周辺にはちらほら人もいて、ちょっとホッとしながら、ケーブルの駅から比叡山の入口まで歩くことに。徒歩10分程です。 両側を巨木に挟まれた道には濃い霧がかかり、数メートル先が見えない状態。 周囲に人影もなく、幻想的というか、ちょっと「怖さ」を感じるほど。 2~3分歩いた頃でしょうか、霧の向から歩いてくる人影が………… 「…………」 「…………」 白のワンピースに長い黒髪の若い女性………… 段々と近づいて来る人影に、母と私は無言に。 (こんな、雷雨の早朝に女性がひとり……) この時、母と私は同じことを考えていました。 (…………人?) 女性とすれ違っても暫くは無言のまま歩き続け、見えなくなって大分してから、二人で「あんな霧の中から出てくるから幽霊かと思ったわっ」「めっちゃ怖かったぁー」と大騒ぎ。 入口の山門が見えた時は、ほっとしたのを覚えています。 (ちゃんと、生きている人ですよ、多分) 今では笑い話ですが、あの時は本っ気で怖かったです。 因みに比叡山は広く、見所も多くあります。 根本中堂にある「不滅の法灯」は建立以来、一度も絶えたことがないと伝えられ、織田信長による「比叡山焼き打ち」で途絶えた際も、山形県の立石寺に分灯していた灯を再分灯し、繋いできたそうです。 灯芯を菜種油に浸した法灯は油を絶やすと火が消えてしまうため、「油断」の語源となったと言われています。 でも、私が一番覚えているエピソードは「霧の中の女性」と山を降りて食べた「唐揚げ定食」の美味しさでした。
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