本屋さん

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私は本屋さんが好きです。 昔、駅前に2、3軒あった小さな本屋さんは携帯ショップや、セルフの珈琲店に変わってしまいましたが。バスの待ち時間に夢中で立ち読みしていた頃が懐かしい。 もう何年も前のこと。たまたま手に取った短編集が面白くて、その場で一話読み切ってしまいました。 その本を買い、一冊読み切った後、しばらくその作家さんの本を買いあさり、読みまくりました(古代中国の歴史物を書かれる作家さんでした)。 夢中になれる本に出会えることはとても幸せだなと思います。 漫画でも、ラノベでも、そういうところで得た知識って案外覚えてて、学生時代にテストで2点くらいは採れたりとか、大人になってから実物を見て感動したりとか。 高校時代の友人で、ファンタジー小説が好きな子がいて、何冊か借りて読んだことがあります。 その中で印象に残っているのが「モモ」という小説です。 ミヒャエル・エンデという作家さんで、「ネバーエンディングストーリー(終わらない物語)」の方が作品としては有名かもしれません(どちらも映画化されています)。 児童小説(ハリー・ポッター的な)のような感じで、内容はもう朧気にしか覚えていませんが、話の中に「時間泥棒」という人物が出てきます。 主人公の少女「モモ」については両親や家族もいないようで、「いつの間にか街に住みついていて、訪ねてくる街の人々の話を黙って聞いてくれる。その黒い瞳に見つめられていると皆、心が穏やかになる」みたいに書かれています。街の人々は皆善良で、穏やかに時間を過ごしていると。 そこに灰色の男たちがやって来て「あなたの時間を貯金しませんか」と持ちかけてくる。 彼等の事を「モモ」は「時間泥棒」と呼びました。 話好きの青年も、世話好きなおばさんやおじいさんも皆、自分の時間を売ってお金を貯めるようになり、「モモ」のところを訪ねる人は殆どいなくなります。 「忙しい、忙しい」と忙しなくなって行く街の人々、それまで大切にしていた物を失くしていることに気づかないのです。 当時の私にはこの物語の内容が難解で、そんなに好きではありませんでした。 けれど、大人になってからふっと「モモ」の言っていた「時間泥棒」に自分も追われているなと感じる時があります。 時間は有限で、この中で仕事とか、生活とか、やるべきことは沢山ある。 私も毎日追われている。 今、私はショッピングモールの片隅で空を見ながらこの文章を書いているのですが、それを「楽しい」と思えているこの時は、「時間泥棒」に時間を盗まれていないのだと思えるのです。
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