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01、大国くんのこと
大国くんは同級生のうちの、ひとり。
いつも授業を受けながら、うとうと居眠りをしている。でも休み時間のチャイムが鳴ると、もそっと顔を上げて言うのだ。
「のぞみー。ノート、貸して」
「いいよ」
にっこり。
彼は心の底から、安心したように太い眉毛を下げて笑ってくれる。しっかりした鼻筋と、ちょっと厚めの整った唇から真っ白い歯が見えて。そういう清潔な空気が、とっても素敵。
「ありがとう。後で、俺が作ったパンをあげるね」
「いいよ、そんなこと」
「ダイエットとか、そんなこと言うなよ? のぞみちゃんに俺が作るあんぱんを食べてもらうことが日課なんだから」
「しょうがないなあ」
こんな会話も、わたしと大国くんの日常なのだ。大国くんは昼休みになると、みずからが開発したあんぱんを大量にクラスメイトに配る。他の子が二個もらうとしたら、わたしには四個もくれる。
「のぞみちゃんは俺の太陽だからね」
「やめてよぅー」
「やめない」
「太る」
「運動しろ」
「やだ」
「でも食え」
にやにやしながら机の上に、あんぱんを四個も置いていく。時々はパックの小さな牛乳も「おまけ」と言ってつけてくれるときもある。
そんな大国くんを周りの先生たちも同級生たちも、応援したいと思っている。だって、ご両親が病気がちで働けないところを彼ひとりのパン工場でのバイトで支えているのだもの。
そりゃあ授業中に居眠りするのは、よくないことかもしれないけど。大国くんに関しては「いいよ、寝てていいよ」みたくなっている。クラス全員も、同じ気持ちだと思う。たぶん、だけど。
来年は高校受験を控えているというのに、こんなにのんびりとした学校生活でいいのかなあと思うときもある。
けど、でも。
定期試験中は真剣に勉強に取り組む大国くんのこと、みんながわかっている。
それに大国くんは陸上部をバイト出勤時間ギリギリまでがんばって、県大会にも出場できるレベルにまで上げている。
誰もが大国くんのことを「偉いなあ」と思っている。
もちろん、わたしも。
ちいさい頃から、彼のことが好きだったから。ちゃんと、大国くんのことをわかってる。
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