第1話

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「名前は?」 「鹿島純です」 にっこりと微笑んで、彼は何もないクソださい理科室の中を歩き始めた。 「パソコンは、1台なんですか?」 「1台だからって、なにか文句でもあんのかよ」 コイツ、俺たちをバカにしてんのか。 「弱小部だから、予算がなくて」 俺の発言に、慌てて山崎が答えた。 俺は精一杯の引きつった笑顔を浮かべる。 失言だったことは分かっているけど、こんな頭良さそうなイケメン新入生、うちのような日陰のマイナー部になんて、どうせ入りやしない。 「情報処理のコンピューター室にいけば、もっとたくさんのパソコンが使えるんじゃないんですか?」 「あぁ、だけど、学校のパソコンはスペック低いから」 とっさにそう答えたものの、学校で使っているパソコンの機種なんて、全く記憶にない。 「学校のはネットに繋がってないから、意味ないんだよ。スクールネットにはもちろん繋がってるけど、先生たちに見られちゃう可能性はあるから。基本俺のポケットワイファイを使って、ここのはつなげてるんだ。パッド用のやつ」 山崎は、自分のポケットから小さなルーターを取りだして見せた。 「なるほど」 にっこりと笑う鹿島の態度が、イケメンかつお上品すぎて、余計に腹が立つ。 「冷やかしなら、帰れよ」 どうせバカにしてんだろ、さっさと帰れよ。 こんなくだらない部活なんて、どうでもいいと思ってるような奴に、つき合っているヒマなんかない。 俺がにらむと、彼は真っ赤な顔になって、おずおずと入部届けを取りだした。 「入部、する、つもりはあります」 小さく折りたたまれたそれには、きっちりとした丁寧な文字で、必要事項が全部書き込まれていた。 山崎が受け取る。 「うおっ、マジで? やったな」 俺は即座にそれを奪い取った。 「今はまだ仮入部の期間だから、その間にどうするのか、よく考えてから決めてほしいね」 変に期待させておいて、やっぱりやめましただけは、ゴメンこうむりたい。 「はい。あの、あのロケット、かっこよかったです」 ややうつむき加減のまま、まだ顔の赤い鹿島は、そうつぶやいた。 制服の袖から伸びた白く形の整った手を、ぎゅっと握りしめる。 「失礼しました」 それでも彼は、大人しく教室から出て行った。 扉がきっちりと閉まるのを見届けてから、俺はようやく息を吐き出す。 「やっと帰ってくれたな」 これで一安心。 あいつはもう二度と、ここへは来ないだろう。
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