夏の思い出

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夏の思い出

 明良(あきら)君の父方の実家は東北の大地主。山間(やまあい)の村の高台にそびえる驚くほど大きなお屋敷で、明良君の父親は少年時代を過ごしたのだという。  まだ明良君が小学校に上がる前のことだった。夏休み、父親に連れられて、そのお屋敷に泊まりに行ったことがあった。従兄弟たちも大勢集まり、虫捕りや川遊びに興じて、思う存分夏を満喫した。  夜になると子供たち一同は離れのひと部屋に集められ、布団を並べて寝かしつけられた。大人たちが、母屋で飲んで騒いで過ごす声を遠くに聞きながら、日中遊び疲れた明良君たちは次々にすうすうと寝息を立てて眠りについた。 「……あれ?」  翌朝目覚めると、明良君はおかしなことに気が付いた。  横並びに四人並んで敷かれていた布団で眠っていたはずなのに、朝起きると明良君の布団だけ、畳半分ぐらい廊下側へずれているのだ。みんなが起きる前に、明良君はこっそり自分の布団を元の位置に引き上げた。寝相が悪くて、明良君の布団だけがずれてしまったのだと思われたくなかったからだ。  その日も一日遊んで、疲れ切って寝床に入った。そうして翌朝目覚めると ──  またしても、明良君の布団だけ位置が変わっていた。今度は畳半分どころか布団一枚分以上ずれており、廊下に通じる障子が目の前に広がっていたほどだった。さすがに誰かの悪戯だろうと、明良君は従兄弟たちを問い詰めた。でもみんな「何を言ってるの?」と、きょとんとするばかり。  その部屋に泊まっていた従兄弟の数は総勢八人で、四枚ずつ並べた布団が向かい合わせで敷かれていた。明良君は廊下側の一番端の布団で寝ていたのだが、三日目の夜は明良君よりも年下の従兄弟を半ば脅して寝床を交換させて、床の間側の中ほどの布団を陣取った。その場所なら足元のすぐが壁だったから、布団がずれても問題ないと考えたのだ。  そうして布団に入った深夜。
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