臭いものには蓋をしよう

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臭いものには蓋をしよう

冒険者ギルドに併設された闘技場。 普段は血の気の多過ぎる冒険者どもの決闘場所としてつかわれ、地面や壁に数え切れないほどの血を滲ませてきたその場所に二人の男がいた。 受付嬢は、ネオを冒険者にするつもりがなかった。 相手に強いやつをあてて不慮の事故で殺害してしまおうと考えていた。 受付嬢の名前はエリー・ヘルイグニル。火の一門。水の一門とは抗争関係にある魔法使いの一門だ。 アクアベルの名前をみたとき、すぐに思いついた。 ギルドの職員としては違反だが、火の一門として、水の一門の人間を殺害すれば評価される。 おもわくば、地位をあげられることを期待して。 「俺様はッ!ブリッツ!!」 「プリッツ?ポキッと折れそうな名前だな」 ネオは勇者が召喚される前食べていたというお菓子の名前を思いたしていた。 「プではない!ブ、ブ!ブリッツ様だッ!」 「ブブブリブリッツ様か、臭そうな名前だ、どうぞよろしく」 この失礼っぷり、魔法使いは嘘つけないというのはこういうことだ、基本的に思ったことは口に出てしまう。 受付嬢には倒せばBランクに飛び級させてくれるという。 「私はネオだ。ブリブリ様?だったかな。君を倒せばBランクになれるそうだが、ランクはいくつなんだね?」 「俺様はッ!ブリッツ!!!だ!!! Eランク冒険者ッ!!!強すぎて誰も俺様をやめさせられないギルド最強の問題児だッ!!!」 「ん?自慢する点なのかそれは」 ほんまや。 全く自慢にできないことを自慢げにいうブリッツ様様。 くだらない話をさえぎるように試合開始の笛がなる。 観客席にはだれもいなくて受付嬢が審判としてただ一人。 目の前で大剣を構える巨体、ブリッツの持つ武器にはべったりと青色の毒が塗られていた。 ネオの装備は、魔法使い一門とは思えないボロ布一枚とパンツ。木の棒と銀貨である。 開始の笛がなると同時にブリッツが雄叫びをあげ体から煙を噴出する。戦士の使う身体強化の魔法だ。 魔法を使うのは魔法使いの特権ではない。魔法使いでなくとも基礎的な魔法ならばだれにも使うことができる。 ネオはその姿を冷たい目で見ながら、懐から取り出した銀貨を上に向かって投げた。5ゴールドは途中で銀貨500枚に換金してきたのだ。 「《錬金ーー現界せよ"騎士の剣"》」 握られた木の棒を中心に魔法陣が渦巻く。そこに落下してきた銀貨が溶けて変形する。 時間にして2秒。手には銀製の剣が握られていた。 風魔法を後方に噴射して一気に加速したネオはブリッツに斬りかかった。 これには受付嬢のエリーも驚く。 まさか魔法使いなのに剣も使えるということと、いきなり王国法違反の貨幣の融解をしたことに。 銀という物質は非常に柔らかい金属だが、魔法で強化されたこの剣は当てはまらない。 何回か切り結び、興に乗ってきたとばかりに笑いながら猛攻を浴びせ始めたブリッツの足元が抜けた。 土魔法、落とし穴だ。 「こんな小細工が効くかぁぁぁ!!」 すぐさま這い上がろうとするブリッツに水の魔法が襲いかかる。 「クリエイトウオーター」 ただの水を出現させる魔法の筈だ。 だが水は酷く濁っていて、悪臭を放っていた。 穴に注ぎ込まれる汚水。 沈むブリッツ。 離れているはずなのに口を抑え、女性らしからぬ「ゔえっ」という声を上げるエリー・ヘルイグニル。 洗濯機かはたまたトイレか、渦を巻きながら注ぎ込まれる水。 追い討ちをかけるように作られた土の板が穴に蓋をする。 "ドン!" 硬化した土の蓋を叩いているようだ。 穴は狭く大剣は触れない。 水は注ぎ込まれていないが、ネオが操作して渦を任せたままだ。 中は汚水で満たされ、目を開けることはできない。空気もなかった。 "ドン!ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン" 叩く音が早くなる。 ネオは冷めた目でそれを見るだけ。 "…………ドンッ!!" "コツッ……" 今まで一番大きいノック音のあと小さい音がして完全に沈黙した。 「おい、倒したぞ。どうなんだ」 この日、ネオはBランク冒険者に昇格した。
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