息をするよいに生き、瞬きするように殺す

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息をするよいに生き、瞬きするように殺す

50シルバーでは冒険者になれない。 冒険者ギルドに登録するに最低1ゴールドが必要だ。あと50シルバー足りない。 犯罪者を狩って兵士や冒険者ギルドに提出すると金になる。 この世界の常識であり、この仕組みは勇者が治安維持向上のために考えたそうただ。 そんなわけで犯罪者狩り始めた。 エンカウントするまで、スラム街をうろつくか、と考えていた彼に酔っ払いがぶつかった。 「あ"?」 ーープァアアアアン!!! ぶつかりながらポッケに入れてあった50シルバーが取られたのに気づいた。 スリだ。スラム街の真ん中を走る路面電車の横を歩いていたネオは、後ろから迫る電車に酔っ払いを突き飛ばした。 クラクションは鳴らすも止まらない列車。目の前で酔っ払いだった男はぐちゃぐちゃに潰れて車輪に挟まって引きずられていった。 50シルバーは死体が持ったままだ。 ネオ・アクアベルは一文無しになった。 一文無し、みたいなものだった彼は本物の一文無しになってしまったのであった。 「どうしたものかな」 そう呟いた彼の目は、徒を組んで道を我が物顏で歩く強面の男たちを治めていた。 ◇ 冒険者ギルドにやってきたネオは経緯を話した。スラム街で闇ギルドをやっていた奴らを殺し、親玉を捕まえてきたと。 どう見ても生きているようには見えなかったが、男性職員が耳を済ませて聞いてみれば、息をしていた。 内臓や目が飛び出している状態でも生きているようだった。 闇ギルドが溜め込んでいた大量の幻覚剤が、あったが肝心の金は5ゴールしかなかった。全く足りない。装備を揃えるには50ゴールドはいる。 幻覚剤を換金すれば700万ゴールドはくだらないだろうが、伝はないし犯罪である。幻覚剤の販売、製造は極刑であるため手の出しようがなかった。 そんなわけで、闇ギルドのメンバーとそこに居合わせた、多分ロクでもない人物と思われる人間を殺した彼は現金を懐に収めると、火魔法でもって建物ごと燃やした。 換金出来そうな親玉だけ建物から出すと、ゴミと一緒に死体を火葬した。 途中、火だるまになった"何か"が飛び出してきたが、蹴って火の中に戻すと二度とでてくることはなかった。 薄暗いスラム街に轟々と輝く炎をみて満足げにうんうんと頷くと冒険者ギルドにむかったのである。 冒険者ギルドにもスラム街に火がつけられて火が燃え広がっていると報がとどいていたがまさか犯人がくるとは思わなかった。 王国法において戸籍の持たない人間を戸籍をもつ人間が殺害するのは罪にならない。とくに苗字持ちは特権階級であり、苗字を持たない戸籍持ちの一般市民の殺害も軽犯罪として扱われる。 冒険者ギルドに加入するにおいて個人情報を書かねばならない。 渡された用紙にすらすらと名前、性別、得意技術などを書き込んでいく。 ネオ・アクアベル 男 お水使い 書くのはこれだけ。 魔法使いは性質上、嘘をはけない。黙秘は出来るが嘘をつくと魔法が弱くなってしまう。だから魔法使いはネオに限らず、ほとんどが無口であるし。 よく喋る魔法使いは大概、失礼なことしか言わない。 お水が汚水でもこれは嘘にならない。 提出された用紙をみてアクアベルという名門の名に驚いたものの、手続きを済ませた受付嬢はにこやかにギルドのルールを話し始めたのであった。
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