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汚水使いの噂
"なあ、【汚水(おみず)使い】って知ってるか?"
酒場で男たちがこそこそと話す。
筋肉達磨に、不潔なおっさんどもが女々しくもヒソヒソ話。
どうせまた美人受付嬢ランキングでしょ、男って馬鹿ね。と思いつつも自分の話が出てこないか内心、気になる女たちは、それぞれがにこやかに話しながらもそれぞれが男どもの話に聞き耳を立てていた。
今日の男どもはどうも神妙そうだ。
誰もが興奮した様子がない。
よくよく聞いてみれば、ああ【汚水使い】の話ではないか。
食事処で話す内容ではないと、思いつつも続きを聞いてしまう。話はそれだけじゃないらしい。
「おいおい、【汚水使い】を知らないなんて田舎だろう?ここで知らない奴なんていないぜ」
ヒソヒソ話だというのにそれなりに大きな声で答えたのは巨大な斧を使う戦士だ。
「おいっ」
冒険者御用達の酒場といえど、冒険者だけではない。一般市民や仕事帰りの兵士、それから冒険者に憧れをもつ貴族の坊ちゃんが。
せっかく飯を食いに来たというのに【汚水使い】の名を聞くなんて飯が臭くなるじゃねえか。
とでもいいたそうだ。
全くその通りで。
水魔法は心の綺麗さが水質に現れる……と言われる魔法使いかいらいで異端とされる汚水を使う魔法使いがいた。
その男はことごとく依頼に失敗し、挙げ句の果てにパーティメンバーを破傷風にして殺した罪で冒険者ギルドからライセンスを剥奪されていた。
筈だ。だが冒険者ギルドをやめてからもその名が途絶えることがなかった。
だからといってどれも食事時に話す内容ではない。
じゃあ、なんだというのか。切り出した男の話に耳を傾けた男達。
重い口を開いた男は、衝撃的な話を口にした。
「【汚水使い】がダンジョンのボスとして出てきた」
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