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「おい、待て。馬鹿野郎」
どすの利いた低音。やけに高圧的な態度。乱暴な口調。
だけど、不思議と人を惹きつける。
そんな声が翼を呼び止めた。
「こんな高けえとこから落ちたら、痛ェだろうが」
至極まっとうで、常識的な一言。
だけど、これから自殺しようと言う少年少女には、まず教えなければならないことだった。
「・・・いたい?」
窓枠に足をかけたまま、生きるか死ぬかの境目で、翼は呟くように言った。
「それ、苦しいのと、どっちがいや?」
「ああ?」
「苦しいよ」
へらりと笑い、翼は振り返る。
「息をすると、苦しいよ」
単純な興味から、問うた質問だった。
特別な意味があった訳ではなかったし、特別な回答を求めた訳ではなかった。ただ、目の前の人が、どう答えるのか、少しだけ興味を持ったのだ。
「そりゃあ・・・」
その人は、訝しげに眉を顰めて、さも当然のように言った。
「どっちも嫌だな」
翼は、予想外の返答に少しびっくりしたように目をパチクリと瞬かせ、こてんと首を傾げた。
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「あー・・・ちょ、タイム。考える」
その人は、待てとパーに開いた手を突き出してしめし、天を仰いで数分の間考えていた。
翼は、片足を上げたままの姿勢が地味にきつかったので、裸足のままペタンと床に座り込んでその人の返答を待った。
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