エピソード1 死ぬにはちょっと不都合な日だった

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「おい、待て。馬鹿野郎」  どすの利いた低音。やけに高圧的な態度。乱暴な口調。  だけど、不思議と人を惹きつける。  そんな声が翼を呼び止めた。 「こんな高けえとこから落ちたら、痛ェだろうが」  至極まっとうで、常識的な一言。  だけど、これから自殺しようと言う少年少女には、まず教えなければならないことだった。 「・・・いたい?」  窓枠に足をかけたまま、生きるか死ぬかの境目で、翼は呟くように言った。 「それ、苦しいのと、どっちがいや?」 「ああ?」 「苦しいよ」  へらりと笑い、翼は振り返る。 「息をすると、苦しいよ」  単純な興味から、問うた質問だった。  特別な意味があった訳ではなかったし、特別な回答を求めた訳ではなかった。ただ、目の前の人が、どう答えるのか、少しだけ興味を持ったのだ。 「そりゃあ・・・」  その人は、訝しげに眉を顰めて、さも当然のように言った。 「どっちも嫌だな」  翼は、予想外の返答に少しびっくりしたように目をパチクリと瞬かせ、こてんと首を傾げた。 「じゃあ、どうしたらいいの?」 「あー・・・ちょ、タイム。考える」  その人は、待てとパーに開いた手を突き出してしめし、天を仰いで数分の間考えていた。  翼は、片足を上げたままの姿勢が地味にきつかったので、裸足のままペタンと床に座り込んでその人の返答を待った。
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