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「どんなって、本当に聞きたいわけ?」
「そりゃあ気になるもの」
「そう? 首が明後日に舵を切ってるとか、全身がスプラッタしてるとか。そんな話なんだけど」
苦い顔で「やっぱりやめとく」と舌を出す愛。
返事代わりに曖昧に口角を上げて応えると、僕も前を向き直した。
彼女は、生まれた時からの幼馴染みだ。
マンションの同じ階に住んでいたご近所さんで、小さい頃はよく一緒に遊んだし、小学校、中学校と九年間を過ごした腐れ縁である。
そうはいっても、高校は別々だったし、少しずつちょうどよい距離感に落ちついていくのだろうな、と勝手に考えていた。
だから、上京した先の東京で、それも同じ大学の講義で顔を合わせた時は、本当にびっくりさせられた。
空白の三年間を飛び越えた愛は、それこそ見違えるほど、女らしくなっていた。
さらさらの髪を肩口まで伸ばし、よく見れば化粧もしていて、とても新鮮な衝撃を受けたことを覚えている。
なにしろ、高校時代にほぼまったくといってよいほど、顔を合わせる機会のなかった僕には、中学時代の彼女しか記憶になかったのだ。
髪はいつもベリーショート。部活のバレーボールに打ち込んで、少年のように顔をくしゃくしゃにして笑っていた姿だ。化粧っ気の欠片も、あるわけがない。
すっかり見慣れた横顔をちらりと見やり、視線をアスファルトへ落とす。
最近は落ち着いたと思ってたのに、か。
残念ながらそれは正しくない。正確には、話していないだけだからだ。
確かに、大学で再会した当時は、事情について話をする機会が多かった。
しかしそれは、高校入学以前のあれこれを、思いのほか細かく覚えていた愛を安心させるための、いわば方便だ。
見える時もある、から始まり、たまに見える、最近はそうでもないと薄めていき、表面上はめでたく、最近は落ち着いてきた、の出来上がりだったのに。
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