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それに今は、まわり中に心配をかけたあの頃とは違う。
僕が自分の死に様を見るようになって、八年目。それなりに対処法を身に付けてきたつもりだ。
自分自身はもちろん、幼馴染みや友達、家族を危険に晒さない方法も。
大体にして、聞かされて気持ちのよい話ではない。よっぽどでなければ、黙っている方がよいに決まっている。
今日は凄かったんだ。ほら、大学の手前にある橋のとこ。
あそこの川を、ぶくぶくに膨れて白目を剥いた僕が流れてきてさ。
きっと、溺死だろうね。慌てて迂回して事なきを得たよ。
こんなことを毎日のように報告されて、喜ぶ人間はいないと信じたい。
「大丈夫……だよね?」
「うわ、なんだよ」
「だってすごい深刻そうな顔してる」
一度は元のポジションに引っ込んでいた愛が、もう一度、顔を近づけてきていた。先程よりもさらに距離が近い。
僕はそんなに、心配になる顔をしていたのだろうか。
まあ、自分の水死体を思い出して、笑顔になるやつはいないか。
なんとなく決まりが悪くて、ぐしゃぐしゃと頭を掻く。
「大丈夫、大丈夫。でも一応こっちから行こうかな。じゃあまた後で」
二つ先の信号でようやく横断歩道を渡ると、力なく手を振ってみせた。
大通りから逸れ、一本入った細い道に足を向ける。
こういう時は無理をせず、適度な距離を取るのが一番なのだ。
グロテスクな自分の死に様からも、パーソナルスペースにするりと侵入してくる幼馴染みからも。
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