1.わりと毎日、九死に一生

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「こら。また後で、じゃないってば」 「あのなあ」 「私もこっちから行く」 「万が一ってこともあるんだぞ」  そう、万が一だ。  自分の死相であるとか、なにがしが目に見えるだけなら、まだ大したことはなかった。  何故なら人間とは、慣れる生き物だからだ。  日々、手術に従事する外科医の皆さんは、そういうちょっとグロテスクな資料や写真を前に、談笑しながらステーキを頬張ることができる、と聞いたことがある。  嘘か本当かは知らないけど、ニュアンスとしてはそういう感じだ。  実際のところ、ただ見えるだけなら、それが凄惨な形をしていれば衝撃を受けはするものの、顔をしかめる程度で済むくらいには、慣れてしまっている。  肝心なのは、僕が見る死に様が、僕の命にダイレクトに影響するということだ。  もし先の、首の捻れた自分の元へ駆けつけていたら、僕はあの場で死んでいたはずだ。  もちろん、あんなものを間近で見たいなどという好奇心は、ひとかけらも持ち合わせていないと断言できる。  幸運にも、最初からそう思えたからこそ、僕はこうして生きているというわけ。  さらにもうひとつ、洒落にならない問題がある。  もしその瞬間、その場所に、誰かが一緒にいたとしたら、その誰かは巻き添えを食う確率が非常に高い。  あのまま二人で横断歩道を渡る、などという選択肢は、無理心中に近い。  今だってそうだ。ふたつ先の信号まで歩いて、大通りを避けたとしても安心はできない。  あれがあそこにあった以上、今朝のこの時間は、別の死に様とエンカウントする可能性が高いのだ。  そこに、事情を知った上で飛び込もうとするなんて。  スリリングな毎日がお望みなのだとしたら、友達付き合いを考え直さなければならない。
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