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「こら。また後で、じゃないってば」
「あのなあ」
「私もこっちから行く」
「万が一ってこともあるんだぞ」
そう、万が一だ。
自分の死相であるとか、なにがしが目に見えるだけなら、まだ大したことはなかった。
何故なら人間とは、慣れる生き物だからだ。
日々、手術に従事する外科医の皆さんは、そういうちょっとグロテスクな資料や写真を前に、談笑しながらステーキを頬張ることができる、と聞いたことがある。
嘘か本当かは知らないけど、ニュアンスとしてはそういう感じだ。
実際のところ、ただ見えるだけなら、それが凄惨な形をしていれば衝撃を受けはするものの、顔をしかめる程度で済むくらいには、慣れてしまっている。
肝心なのは、僕が見る死に様が、僕の命にダイレクトに影響するということだ。
もし先の、首の捻れた自分の元へ駆けつけていたら、僕はあの場で死んでいたはずだ。
もちろん、あんなものを間近で見たいなどという好奇心は、ひとかけらも持ち合わせていないと断言できる。
幸運にも、最初からそう思えたからこそ、僕はこうして生きているというわけ。
さらにもうひとつ、洒落にならない問題がある。
もしその瞬間、その場所に、誰かが一緒にいたとしたら、その誰かは巻き添えを食う確率が非常に高い。
あのまま二人で横断歩道を渡る、などという選択肢は、無理心中に近い。
今だってそうだ。ふたつ先の信号まで歩いて、大通りを避けたとしても安心はできない。
あれがあそこにあった以上、今朝のこの時間は、別の死に様とエンカウントする可能性が高いのだ。
そこに、事情を知った上で飛び込もうとするなんて。
スリリングな毎日がお望みなのだとしたら、友達付き合いを考え直さなければならない。
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