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「ほら、万が一とか言う。それならなおさらでしょ。いっこ貸しね。お昼、おごられてあげる」
「なおさらって、意味わかんないんだけど」
人数が増えたところで、リスクが分散されるものでもない。
苦笑いで拒否反応を示すが、お構いなし。かといって、命に関わるぞと脅しても逆効果だ。
よりいっそう、むきになって付いてこようとするのは目に見えている。
二歩三歩と跳ねるようにして前に出た愛は、くるりと振り返った。
まったく、こっちの気も知らないで呑気なものだ。思わず眉をひそめてしまう。
そんな僕の苦々しい表情を、さらなる拒絶だと受け取ったのだろう。
愛は一瞬むっとした表情になって、改めて笑顔を浮かべなおした。わざとらしい位に、眩しいやつをだ。
「お昼、あのカフェのパスタが食べたいな。せっかく奏都のおごりだし?」
「あのなあ」
「さ、早く行こう」
顔に、諦めて付いてきなさい、と書いてある。
こうなったら愛はテコでも動かない。
仕方ないか。しっかり注意して気を配って歩けば、大丈夫のはずだ。
何度目かの溜め息を澄みきった空気に混ぜこんで、僕は真っ青な空を仰いだ。
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