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2.いいよな、お前は
「本当に大丈夫だって。とりあえず、学校でこの話はやめよう」
「だって、あんな言い方されたら気になる」
結局、話題を逸らせず大学に辿り着いてしまった僕は、いよいよ強気に迫ってくる愛を正面に迎え、苦笑いのまま、声のトーンを落とす。
講義室はまだ人もまばらで、このまま続けていたのでは誰かの耳に入りそうだ。
自分の死に様がどうこうなんて話、大っぴらにしたいものではない。
「朝から痴話喧嘩かよ、うらやましいね」
「真司、ちょうどよかった。パス」
「パスってひどくない?」
「おけおけ、両手で受け取っちゃうよ」
「二人ともやめてよ、真面目な話なんだから。奏都がね、またあれが見えたって」
なんだ、面白い話じゃねえのか。
そう言って、へらりと笑うこいつは、鉢坂真司。高校からの同級生で、腐れ縁の第二号だ。
一八一センチの長身。二重のタレ目にすっと通った鼻筋。ボクシングだったかなんだったか、打撃系の格闘技で鍛えたというスタイル。
ぱっと見だけなら、格好良い部類に入るらしいのだけど、僕に言わせれば、そんなにいいものではない。
適当にセットした、と言うと本人は凄く不機嫌になるのだけど、ぼさぼさの茶髪。
人を小馬鹿にしたような笑みを湛えた薄い唇。
その如何にも軽そうな口先から、好きなモノは女の子、などと高らかに宣言してみせるのだ。
女の子はモノではないしその言い方はおかしい、と苦言を呈すれば、それじゃあ好きなコトは女の子、と言いなおすような輩である。
本人曰く「俺は大きな失恋を乗りこえて、ひとまわり大きくなったんだよ」なのだそうだ。
しかし高校入学の時点ですでに、このキャラクターは確立されていた気がする。
中学が一緒だったという友人に聞いても答えは同じ。こいつは一体、いつ大きくなったのだ。
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