帰投

6/12

29人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 太陽系へ深く侵入するにつれ、光量が増す。  光電源モジュールが完全起動し、バッテリーの電圧が正常値まで復活する。  私は通信機能の回復を待って、地球に対して信号を送ることにした。  「こちら望星2025。異常事態発生。太陽系に再突入し、地球へ向かっている。私は地球への帰投プログラムを所持していない。指示を請う」  計算によれば、この通信は4.59時間後に地球に届く筈だった。そしてきっかりその倍の9.18時間後に、地球からの返信が届いた。  「こちら管制塔。望星2025、船体IDを確認。自船の異常を報告せよ。また、航行中の異常を報告せよ」  それはこれまで何度も確認した。しかし今一度、私は自身の異常を確認した。  異常なし。  航行システムにも異常無ければ、荷室にも異常は無い。  外観を捉えるカメラにも、内観を捉えるカメラにも異常は認められない。  航行中の異常に関しては、検知していない。  航行中に何が起こったか。それは検知できない。  望星2025は船長である私を含め、全てのセンサーと制御機能が休眠中だったのだ。  プロキシマ・ケンタウリの光が届くその時まで。  闇。  完全な闇。  闇の中で何が起こったのか。  わからない。  「こちら望星2025。船体の異常は無し。航行中の異常は不明」  9.18時間後。  「こちら管制塔。状況了解。帰投プログラムを転送する。以上」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加