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『理人さん、愛してます』
『俺も、ずっと愛してる――』
あれから、一ヶ月。
「あっ、あっ、あっ……!」
佐藤くんが……、
「も、もう無理っ……も、出ないっ……!」
「ごめんなさい……あと一回だけ……っ」
「ひあぁんっ!」
ものすごく……、
「だ、大事にするって言っ……ふ、あぁっ!」
「してますっ……痛くないでしょ?」
「そういう問題じゃっ……んんん!」
しつこい!
「ひあっ……だ、だめっ、それだめ……っ!」
内腿に指が食い込んだと思ったら、いきなり左足を持ち上げられ肩に担がれる。
必死に首を振って訴えても、佐藤くんは止めるどころか、昂ぶりをますます膨らませ内壁を押し拡げてきた。
繋がりがさらに深くなり、容赦なく最奥を突かれる。
「なんで?いいとこ当たるでしょ……っ」
「だ、だからだ、ばかぁ……!」
ひいひい啼かされ、ついでにぼろぼろ泣かされながら、揺れる視界の中心で発情した獣のように汗の飛沫を吹き飛ばしている佐藤くんを見上げる。
思えば、俺が勃たなかった一年半近くセックスを〝おあずけ〟していたわけだから、若い佐藤くんには拷問のような毎日だったかもしれない。
でも、その間なにもなかったわけじゃない。
手で、口でいっぱいした。
佐藤くんに気持ちよくなってほしかったし、なにより、俺がそうしたかったから。
それなのに、最近の佐藤くんは以前にも増して激しく俺を求めてくる。
まるで、俺を孕ませようとしているかのように。
「理人さん……っ」
「はぁん!」
パンッと音を立てて肌と肌がぶつかり合い、目の前に火花が散った。
下腹部の筋肉が一気に収縮するのを感じ、同時に低く呻いた佐藤くんの全身が大きく震える。
やがてそれが治まると、佐藤くんの火照った肌がずっしりと俺を押しつぶしてきた。
荒く乱れた呼吸に合わせ、背中の筋肉が隆起する。
首筋がしっとりと湿っていくのを感じた。
「……佐藤くん」
「はい……?」
「子ども、欲しいの?」
のしかかっていた重みが、一気になくなる。
「は?え、子供?」
「瑠璃が生まれたときにそんな話してただろ。それに最近の佐藤くん、なんかその、は、激しいし……もしかして、俺に、た、種付けでもしてるのか、ってくらい……」
居心地の悪い沈黙が落ちる。それに続いたのは、長ーいため息。
「……もう」
佐藤くんが隣にドサリと倒れ込み、マットレスが傾いた。
耳に直接吐息を振りかけられ、心臓が跳ねる。
「理人さん、またなにか勝手に思い込んでるでしょ」
「ま、またってなんだよ!」
そりゃ、子供が欲しくなったからやっぱり女の子と付き合っておけば良かったって後悔してるんじゃないかとか、実はどうやって俺に別れを切り出そうか悩んでるんじゃないかとか、いろいろグルグルしてたけど!
「言葉通りの意味です。確かに瑠璃はかわいいですよ?世界一だと思うし、なんなら瑠未と一緒におむつのCMに出て当然くらいには思ってます」
「うわ。出たよ、佐藤くんの叔父馬鹿!」
「理人さんだって似たようなもんでしょ。でも、理人さんよりかわいい存在なんていないんですよ」
「なっ……!」
よ、よくもまた真顔でそんな恥ずかしいことを……!
「かわいいかわいいって言うけどな、俺もう33なんだぞ!」
「ほんと、奇跡のオッサンですよね」
「オ、オッサン言うな!」
「まあまあ。それに……」
「ひあっ!あっ、や、やめっ……あ、ふ、ぅん!」
「理人さんのここより俺を気持ちよくしてくれる場所なんて思いつかない」
俺のお尻に指を突っ込んだまま、佐藤くんがニヤリと笑う。
「エ、エロオヤジ……!」
「そんな俺が好きなんでしょ?」
「ん、ふぁあぁっ……か、かき回すな!」
「気持ちよくない?」
そ、そりゃあ良くないわけじゃないけど、俺の後ろはもう中出しされた佐藤くんのせぃ……でいっぱいで、指が出たり入ったりする度に情操教育上非常に良くない音がぐっちょぐっちょと聞こえて、すっかり萎えていたはずの俺の股間が疼く……って、そうじゃない!
「も、もう、何回イッたと思ってんだよ!」
「三回」
「は……」
「でも俺はまだ二回です」
「そ、そんなの知るか!」
「えー……だめ?」
は?
『だめ?』ってなんだよ、『だめ?』って!
ああもう、そんな瞳で見るなッ!
「あ、明日は一歩も動かないからな!」
「はい」
「ブレックファスト・イン・ベッドがいい!」
「はい!任せてください!」
「たくっ、相変わらず返事だけは調子いいいいぃんぅっ!」
前触れなく内臓を押し上げられ、息が詰まる。
佐藤くんは勢いよく身体を翻すと、指を引き抜かれ刺激を求めて喘ぐそこに、ズブズブと自身を埋めた。
「んあっ!そ、そんないきなりっ……」
「好きです」
「……」
「大好きです」
……ああ。
あああああああもう!
これだから嫌なんだ!
視線は野性的な情欲にこれでもかと塗れているくせに、その言葉は真っ直ぐで純粋で、阻む間もなく一瞬で心の奥の弱いところまで突き抜けてくる。
そしてじわじわと暖かい波になって身体全体へと広がっていき、冷えていた四肢の先端まで辿り着くと、愛されているという実感で満たされた俺は、どうしようもなく泣きたくなるんだ。
「……っ」
「理人さん?」
「俺も好きだよこのやろう!」
鼻で笑い、佐藤くんが律動を再開する。
ベッドが軋むのを聞きながら、俺は佐藤くんの腰にきつく脚を絡ませた。
fin
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