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途中から気づいていた。
俺を尾行している男たちがいる。気づいていることを悟られないためにチラッとしか見ていないが、黒っぽい服装の男が二人、付かず離れず後ろを歩いてくる。
夕方の川べりは人が少ない。点々と続く電柱と街灯以外に、人が隠れられるような障害物もほとんどない。そんな中で適度な距離を保って尾行してくる男たちは、素人とは思えなかった。
彼女を追っていた奴らだろうか。
彼女が誰かに追われていることは分かっていた。
詳しくは聞いてない。でも、怯えたような目の動きで、相当に追いつめられていたことは明らかだった。
ひと気のないところでも襲いかかってこないのは何故だろう。奴らの狙いは、彼女自身なのだろうか。元は彼女の持ち物であるこのスーツケースにも、ましてや俺になど、用はないということか。
だとしたら、海に着くまで手を出してくることはない。
俺は袖で額の汗をぬぐうついでに、時刻を確認した。日暮れまであと15分。
完全に暗くなる前には海に着くだろう。
そこで俺たちはまた、一緒になれるんだ。
川沿いの道は、正面の景色を遮るものがなくなってすぐに、川を離れて大きく左に逸れた。ゆるやかな上り坂を歩く。右側一面に海がひらけ、少し先に、彼女が言ったとおりの小さな岬が見えた。
「着いたぞ、はるか……」
思わずため息が出た。
俺はスーツケースを持つ手に力を込めて、止まった脚を再び動かした。
岬はガードレールの外に張り出している。下は舗装されていない土と砂利だ。スーツケースのキャスターは使えなくなるだろう。
でも、柵もないあの突端からなら、飛び降りるのは簡単そうだ。
俺は一人静かに微笑んだ。
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