ニート、小説家を目指す

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ニート、小説家を目指す

ここに至るまでの人生の人間関係で、これほど小説家というものに向いていない者もそうはいないだろう。小中高と友人や恋人は一人もおらず、大学だって出ていない。しかし、この居心地の悪い家において一発逆転を狙うなら「小説」ではないだろうか。投資やギャンブルをやるには元手がなさ過ぎるし、家庭だって決して裕福ではない。やはりこのニートが一発逆転を狙うなら小説家ではないだろうかと思う。 今日も会話のない冷めた食卓には、沈黙が続く。俺は思い切って両親に打ち明ける。 「俺、小説家になろうと思うんだ。」 母は何も言わずそのまま夕食を食べ続ける。父親は一言、「頑張れよ」の一言。はっきり言って何も期待なんてされちゃいない。そりゃそうだ。学歴もなく、人間関係は皆無に等しい自分にいい作品が書ける訳ない。誰だってそう思うだろう。活字は昔から苦手だった。高校卒業後、一旦は就職したもののやはり根気のなさからわずか1週間で辞めてる。それでもいい。書くだけならタダだ。 早速二階の自室へと戻り、PCを開き、書こうとすると何も思いつかない。プロットなんて考えてもいないし、アイデアすらない。そもそも登場人物を出そうにも友人のいなかった俺に出せるはずがない。さらに言えば、この気薄な人生経験で文豪のようなことをしようとしようとしても、ただのおままごとだろう。早くも息詰まる。そもそも純文学やエンタメ小説、恋愛小説、経済小説?題材は何がいいのだろうか?この薄っぺらい人生の俺に一体何が書けると言うのか。教養だって無いに等しい。そうこうしているうちに眠くなってきた。明日考えよう。 昼過ぎに起きると1階のリビングでそそくさとインスタントラーメンを頬張り、そそくさと2階の自室に戻る。そしてもう一度考え直しだ。家から一歩も外に出ない生活が続いていた為、アイデアが思い浮かぶはずがない。強いて言うならなんとなくPCやスマホ、ゲームを1日中やるぐらいだが、これが小説に生きるとは思えない。なんとなくスマホで5chを見て、スマホゲームをやっているともう夕刻だ。 「これじゃ何も変わらないじゃないか…」 いつもどおりリビングで夕食を食べていると、テレビのニュースでは芥川賞、直木賞の受賞ニュースがやっている。俺もいつかこの壇上に立つんだ。そう思うと白米を掻き込み急いで2階の自室へと戻った。 とは言えやはり題材がなさ過ぎる。明日は少し周りを散歩してみるか。もしかしたら何かいいアイデアが、思い浮かぶかもしれない。 翌日もやはり昼過ぎに起き、昼食を取るとこの身なりではさすがに外出できないため、ひげを剃り着替える。玄関を出たはいいものの、久々の外出の為か人の目線が怖い。近場の公園では子どもたちが遊んでいるが、見れば見るほど惨めになるし、そもそも不審者で通報されないか不安になった。 「もういい、帰ろう」 そそくさと家へと戻る。せいぜい20分ほどの外出時間なのに何故か、達成感がある。 「いやいや、駄目だ。こんなことでは死ぬまで書き上がらない」 俺はPCを目の前にうろたえた。とりあえず書き始めだけでも書いてみよう。題材はエンタメ小説でいいだろう。しかし、いざ書き始めると深刻な対人経験値の不足からか、会話の部分が書けないし人々の生活というものがこの4畳半で完結している自分には辛すぎる。相談相手と言えば親ぐらいだろうが、この間のそっけない対応を見ていると話しても無駄だろう。完全に行き詰まっている。いや、正確にはスタートラインにすら立てていない。このまま諦めるのも手だが、それじゃ今までの俺と一緒だ。今回こそは本気なんだ。そう思い、考え込む。
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