父、倒れる

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父、倒れる

うなだれていると、1階から突然母親の叫び声が聴こえてくる。1階に急いで降りるとリビングで倒れている父の姿が見えた。慟哭している母を他所目にまずは救急車を呼ばなくてはと思い119番に通報だ。家の電話を使い通報すると10分ほとで到着するとのことだ。そもそも何故倒れたのかも分からないし、心臓マッサージなんて生まれてからしたこともないからやりようがない。必死に意識のないであろう父を呼びかけるので精一杯だ。この時ふと、このまま意識が戻らなかったら自分のこれからの人生がどうなってしまうのかと考えてしまった。我ながらなんと浅ましい人間なのかが、垣間見える。そうこうしているうちに救急車が到着し、消防士が父をストレッチャーに乗せ救急車に運び込む。俺と母も同上し、近くの総合病院へ緊急搬送される運びとなった。病院につくと集中治療室へと急いで運ばれる。そこで医師から告げられる。 「患者さまの心肺はもう動いていません。こちらでは手の施しようがないです。病名はくも膜下出血ですでに運ばれた時点で手遅れでした。」 その後も長々と説明をされたが俺の意識は半分ぼやけておりもう何を話されても頭に話が入ってこない。 泣き崩れる母を他所にこれからのことを思わず考え込んでしまった。 わずかに入る遺族年金と死亡金退職金だけでこれからどうやって生きていくのか。しかし、根っからのクズなのかここでバイトや就職というワードは出てこない。なら尚更小説家を目指す他ないだろう。しばらくは遺産でこの暮らしもなんとかなる。その間に小説家デビューするという道しかもうない。退路を断って俺は決断した。 お通夜や告別式を済ませ、いよいよ火葬の時だ。こんなどうしようもない俺でも骨だけになった父の姿を見たときは自分でも目が潤む。本当に人間死ぬときはあっけないものだ。遺骨の納骨を済ませると、その日から図書館通いが始まった。 まずは簡単な小中学生向けの冒険小説を読んで見る。活字は苦手だったが、読んでみると意外と面白いではないか。ただ、自分にこの世界観を表現するのは難しそうだ。とりあえず家に帰って早速物語作りに取り掛かる。主人公は冒険使いにしよう。目的は何がいいだろうか。王道らしく勇者がドラゴンを、やっつけるといったところだろう。こういう冒険小説には旅のお供も必要だ。ヒロインを出さなくてはいけない。女友達や恋人なんてできたことのない自分にとってこれは苦痛すぎるがなんとか出来た。あとは一緒に戦ってくれる戦士と言ったところだろう。とりあえず表だけは取り繕った気分になる。あとは中身だ。いろんな仲間や敵と出会い成長していく過程を描かなくてはいけない。この時点で半分自分の頭の中で嫌気が指しつつあるのが分かる。それからこの世界観を表現するのが思った以上に難しいのがよく分かる。小中学生向けの小説とは言えああいった人気作品はよくできているのだと改めて感心してしまった。まず旅の始まりを書こうにも書き出しが思いつかない。考え込んでしまった。とりあえず街にドラゴンが現れて大暴れし、退廃した街を救うべきドラゴンを倒しに行くと行ったところだろう。村人とも適当会話しておけばいいんじゃないか。村長に武器と装備を貰ってさあ出発と言ったところだろうか。冒険に出たはいいものの続きが思いつかない。完全に行き詰まった。そうこうしているうちに眠くなってきた。もういい、残りは明日考えよう。 翌朝、いつもどおり朝食を取り2階にある自室のPCとにらめっこが始まった。どうしたものか、一向にキーボードのタイピングが進まない。 「もういい!こんなの無理だ!」 自分に冒険小説はやはり無理だった。PCから離れベッドでスマホをいじっていると外から何やら声が聴こえてくる。 「やーい!このニート!」 「お前いつまでそんなことやってんの!」 外でどうやらクソガキが自分のことを馬鹿にしているようだ。窓を開けて怒鳴り返してやろうと思い窓を開けるとそこには誰にもいない。今のは一体何だっんだ…
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